<社説>ワクチン供給減 混乱回避は政府の責任だ


社会
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 新型コロナウイルスのワクチン供給量が減少することを受け、自治体への影響が深刻になっている。

 琉球新報の取材では県内14市町村が集団接種に「影響がある」とした。共同通信のまとめでも都道府県所在地47市区のうち79%に当たる37市区が見直しを進めている。
 高齢者接種の7月完了、11月までの全国民への接種完了に向け、大号令をかけてきたのは、ほかならぬ政府だ。ワクチンの供給不足があってはならず、混乱回避へ政府が責任を持って対処すべきだ。
 全国知事会が11日に出した緊急提言は「ワクチン不足で現場が混乱している」と指摘している。
 ワクチン接種で政府全体の調整を担う河野太郎行政改革担当相は提言を受け、「1日100万回を超えていくとは正直、思っていなかった」と12日に述べている。供給不足の要因として、自治体による接種回数の伸びを予想できなかったとの認識を示したのだ。
 あまりにも無責任だ。この間の経緯を振り返れば、政府の甘い見通しが現在の混乱を招いたのは明らかだからだ。
 5月時点の政府発表は全国約9割の市町村で高齢者接種が7月末に完了するとした。実際は菅義偉首相の意向を忖度(そんたく)した総務省の担当者らが、自治体に前倒し要請をしたためだ。約17兆円の地方交付税を配分する総務省に圧力をかけられ、多くの自治体が無理を承知で「完了する」と答えたのが実態だ。
 それでも自治体は態勢を整え、接種を加速した。ところが予想を超えるハイペースに供給が追い付かなくなったのだ。政府は在庫を抱える自治体向けの配布を1割減らすという。8月前半の配布量は県内は希望の半分もない。在庫がなければ8月以降の接種計画をどう立てればいいのか。
 拍車をかけたのが職場接種に使うモデルナ製の不足だ。しかも不足する可能性を政府は把握していた形跡がある。
 河野氏は6日の会見で、4~6月に輸入を予定したモデルナ製が当初予定の4千万回分でなく、1370万回分になることを明かした。把握したのは「ゴールデンウイーク前ぐらい」(河野氏)という。
 少なくとも5月時点で絶対量が足りないのは分かっていたはずだ。職場接種を強行した結果、約3週間でモデルナ製の不足が明らかになった。職場接種は申請受け付けを停止する事態に追い込まれた。
 政府の対策に信頼感が全く持てない。これほどまでに甘いのは危機感が欠如しているからではないのか。
 ワクチンの供給量が課題となるたびに聞こえるのは「ワクチンは政権浮揚の手段」(閣僚経験者)、「高齢者接種が終わらないと選挙が打てない」(自民党国会議員)という国民無視の妄言だ。
 ワクチンは一政党の人気取りに使うものではない。国民の命を最優先とした供給計画を政府は示すべきだ。