<社説>沖縄奄美 世界遺産に 課題解決への出発点に


社会
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 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」(鹿児島県、沖縄県)について、世界自然遺産に登録することを決めた。沖縄の固有の自然は「世界の宝」になった。

 米軍基地問題や観光客が押し寄せるオーバーツーリズムなど直面する課題は横たわったままだ。登録は世界最高水準の保全に向け、ゴールでなくスタートである。課題を解決し、かけがえのない生態系を次代に伝える責任がある。
 登録区域は4島に及ぶ計約4万3千ヘクタールで、大部分が森林。かつて大陸とつながっていたが海面上昇で切り離され、イリオモテヤマネコ、ヤンバルクイナなど多くの固有種が独自の進化を遂げた。
 2003年、政府は知床や小笠原諸島も含め、琉球・奄美の3地域を世界自然遺産候補地として選定した。知床は05年、小笠原諸島は11年にそれぞれ登録された。
 「沖縄・奄美」が今回の枠組みで国内候補の暫定リストに記載されたのは16年。18年に政府が推薦した区域のうち、沖縄島北部区域は飛び地状で、米軍北部訓練場の返還地約4000ヘクタールを含んでおらず、ユネスコの諮問機関、国際自然保護連合(IUCN)は生態系の連続性を維持するため地域を再考するよう求め、延期を勧告していた。結局、登録までに約20年を要した。
 登録された沖縄島北部区域の隣には北部訓練場が広がる。米軍は昼夜を問わず訓練を繰り返し、騒音や振動を引き起こしている。北部訓練場返還地から放射性物質や薬きょうなど廃棄物も見つかる。
 名護市辺野古の海域を埋め立て、新たな基地建設が進められている。新基地や北部訓練場や伊江島補助飛行場など、米軍機による米軍施設間の往来が増え、環境への悪影響が懸念される。基地は最大の自然環境かく乱要因だ。
 世界遺産登録地域の最大の環境保全策は登録地域と隣り合わせの米軍施設の全面返還であり、訓練や新基地建設の中止と共に求める。
 許容量を超えた観光客が押し寄せるオーバーツーリズムも懸念される。自然が荒らされ、消失する事態となれば元も子もない。水の都、イタリアのベネチアは1987年に世界遺産に認定された後、世界中から観光客が殺到し、「危機遺産」指定を勧告された。日本でも世界遺産の富士山で、ごみ投棄問題などが浮上する。問題が解決しなければ、登録リストから抹消される。
 2020年に県希少野生動植物保護条例が施行され、西表島では入島数の上限を年間33万人に設定する。やんばる地域では登録地への立ち入りに認定ガイドの同伴を求める。これらの周知と実効性を高めることが重要だ。
 受け入れる側の努力だけでは成り立たない。この自然を守り抜くため訪問する側の理解や行動も必要だ。量より質への転換など持続可能な経済活動の在り方が求められる。