<社説>辺野古サンゴ移植 許可は白紙に戻すべきだ


社会
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 沖縄防衛局は29日、名護市辺野古の新基地建設予定海域に生息する、約4万群体のサンゴ類の移植を始めた。前日に玉城デニー知事が条件付きで移植を許可したことを受けて即座に実行に移したものだが、高水温期や繁殖期(5~10月)の移植を避けるという県の条件を無視して採捕を強行した。自然破壊に等しい許し難い行為だ。

 海水温上昇によるサンゴの白化が世界的に報告され、サンゴ生態系の保全は国際的な要請だ。ひとたび失われれば取り返しがつかない自然環境だけに、県の付けた条件は行政として最低限の内容だ。
 その条件すら守らず、新基地建設の進展を優先して防衛局が作業を進めるのであれば、移植許可を白紙に戻さなければならない。
 サンゴ移植は未確立の手法であり、保全を約束するものではない。移植先での生存率は低く、2018年に沖縄防衛局が埋め立て海域から移植した絶滅危惧種オキナワハマサンゴ9群体のうち、5群体が死滅・消失している。この際も防衛局は高水温期に移植を実施し、専門家から「夏場に移植をしたら、確実にサンゴのストレスとなる」と批判が上がっていた。
 さらに今回は4万群体もの大量のサンゴを採捕し、移植するという前例のない事業だ。県としても簡単に申請を許可できるはずはなかった。移植への判断を保留してきた玉城知事だが、今月6日に最高裁で敗訴が確定し、農林水産相の是正指示に従って許可を出さざるを得なかった。
 そもそも辺野古新基地建設は大浦湾側に存在する軟弱地盤によって、工事の完成のめどが立たない事態が生じている。防衛局は軟弱地盤改良のために設計変更の承認を県に申請しているが、県は不承認とする構えだ。
 海底90メートルに達する軟弱地盤は工事の実績がない。新基地建設の総工費は日本政府の試算でも9300億円に膨らみ、完成までの期間も約12年に延びた。だが、これだけの費用や時間をかけても完成の保証はない。実現性が乏しい事業のために、本島北部の貴重なサンゴ群をリスクの高い移植にさらす必要はない。
 最高裁の判決でも「設計変更が不承認になった場合、移植が無駄になり、水産資源保護法の目的に反する」と、県の主張を支持する意見があった。防衛省は設計変更が不承認となる前に、サンゴ移植が進んでいるという既成事実づくりを急いでいるのだろう。
 玉城知事は条件違反のサンゴ移植を停止する措置を急ぎ講じるとともに、設計変更申請に対する判断を毅然(きぜん)と示すべきだ。軟弱地盤以外の区域で土砂投入やサンゴ移植の既成事実を積み上げようとする行為を、これ以上見過ごしてはいけない。
 サンゴの生息域を埋め立てる基地建設よりも、世界自然遺産に認められた環境の保全こそを優先すべきだ。