<社説>屋比久選手 銅メダル 県勢初の偉業たたえる


社会
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 沖縄県出身選手として全競技を通じて五輪の個人種目初のメダリストが誕生した。

 東京五輪第12日の3日、レスリンググレコローマンスタイル77キロ級の3位決定戦に初出場の屋比久翔平選手が勝利し、銅メダルを獲得した。
 レスリングは紀元前にギリシャで開催された古代五輪のころからの競技種目。最古の格闘技と呼ばれる種目で見事表彰台に上った。県勢初の偉業を成し遂げた屋比久選手の活躍をたたえ、県民と共に喜びを分かち合いたい。
 2回戦で2019年世界選手権覇者のT・レーリンツ選手(ハンガリー)に屈したが、3位決定戦に出場。モハンマダリ・ゲラエイ選手(イラン)に対し、前へ出る攻めのレスリングを貫き、テクニカルフォール勝ちした。
 1989年と91年全日本選手権を制した父・保さんの背中を見て育った。保さんは92年バルセロナ五輪の国内選考は、けがで敗退した。「お父さんがオリンピックに行けなかったから、あんたが行くんだよ」と周りに言われて育ち、小学校4年で競技を始めた。
 保さんが監督を務めた浦添工業高校時代に技術をたたき込まれ、日本を代表する選手に成長した。フリースタイルではなくグレコを選んだ理由も「父の影響が一番」と言う。父子でつかんだ銅メダルと言えよう。
 屋比久選手は競技だけでなく県内の競技力向上にも思いをはせる。本紙の取材に「高校まで沖縄にいると練習相手が少なく、今は全国で活躍する選手も少なくなっている。沖縄の選手の目標になりたい」と語っている。銅メダルは未来のオリンピアンたちに夢と希望を与えてくれた。
 東京五輪は、柔道で両親が南風原町出身の渡名喜風南選手が銀メダルを獲得した。重量挙げ男子61キロ級で、南城市知念の久高島出身の糸数陽一選手はメダルには届かなかったが前回リオ五輪から2大会連続の4位入賞を果たした。自転車男子個人レースで石垣市出身の新城幸也選手は35位だったが、五輪三大会連続で完走した。
 ハンドボール男子予選リーグ最終戦で、県出身の東江雄斗選手が最終盤にゴールを決め33年ぶりに白星を挙げた。池原綾香選手は女子ハンドボーラーで県勢初の五輪のコートに立ち攻守で活躍した。
 選手らが活躍する一方、新型コロナウイルスの感染急拡大が止まらない。菅義偉首相らは大会開催と感染急増との関連を否定するが、世界中から集まった選手や関係者、国民一人一人の命を守ることが最優先である。
 政府は重症以外は自宅療養とする新方針を決定した。呼吸困難や肺炎の症状がある人も自宅療養となる可能性があり、容体が急変しても医療が受けられないかもしれない。国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会は大会中であっても、重大な決断を下す時期を逸してはならない。