<社説>政府コロナ新方針 入院制限で命守れるのか


社会
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 果たして入院制限によって菅義偉首相が繰り返す「国民の命と健康」は守れるのだろうか。はなはだ疑問だ。

 新型コロナウイルスのデルタ株の広がりで新規感染者が急増し、病床不足への懸念が広がっている。政府はこれまでの方針を転換し患者の入院要件を厳格化した。しかし、政府方針に自民、公明の与党がそろって見直しを求める異例の事態となっている。
 4日の国内の新規感染者数は、1万4千人を超え過去最多を更新した。沖縄の602人をはじめ東京など14都府県で最多となった。2日現在、沖縄を含む5都県の病床使用率はステージ4(爆発的感染拡大、50%以上)の水準に達した。
 これまでは軽症や無症状が自宅または宿泊療養、中等症以上が原則入院だった。新方針は、肺炎などの症状がある中等症のうち重症化リスクが低い人は自宅療養とし、家庭内感染の恐れや自宅療養が困難な場合は、ホテルなどの宿泊療養も可能とする。
 入院要件をより厳格にすることで、限られた病床を効率的に使うのが目的だ。しかし、自宅療養対象とされる中等症では肺炎や呼吸困難がみられ、重症化すれば酸素投与が必要となる。
 新型コロナは患者が急変する例が知られている。第4波の際、大阪府で適切な治療を施せない「医療崩壊」状態となり、自宅療養中に症状が悪化し死亡する事例が相次いだ。
 自宅療養に切り替えて容体が急変した場合、酸素投与できる医療従事者がそばにいるとは限らず、迅速に対応できない恐れがある。
 国際医療福祉大の松本哲哉教授(感染症学)は「呼吸が苦しい人は食事を取るのも難しい。自宅で療養させるのはリスクが高く、通常はあり得ない」と指摘している。
 政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は、政府の方針転換に関し事前に「相談はなかった」と明らかにした。専門家組織にも相談せず「通常あり得ない」政府方針に対し、全国知事会は中等症のうち自宅療養となる患者の判断基準を明示するよう求めていた。
 しかし、田村憲久厚労相は衆院厚生労働委員会で「都でつくってもらっている」と述べ、東京都の基準づくり待ちであることを明らかにした。方針転換した政府が具体的な基準を示さず、東京都任せにしているのは、場当たり的で無責任だ。
 従来のウイルスより感染力が強いデルタ株の置き換わりについては専門家が警鐘を鳴らしていた。関東ではデルタ株の割合が9割に達したと推定される。しかし、菅政権はワクチン接種一本やりで、医療体制の拡充など効果的な対策を打ってこなかった。
 今回の新方針が医療現場の負担減につながるのか。むしろ混乱を助長していないか。説明責任を果たさない菅政権に不信感が募るばかりだ。