<社説>入管女性死亡報告 命と人権軽視は深刻だ


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 名古屋市の入管施設に収容中のスリランカ人女性が死亡した問題で、出入国在留管理庁が調査報告書を公表した。

 医療体制の不備や、人命と人権を軽視し、情報が幹部に報告されない閉鎖的な組織の問題が明らかになった。責任は重大である。
 女性の死から浮かび上がった入管制度の問題を直視し、抜本的に見直さなければならない。国会は入管難民法改正へ議論を尽くすべきだ。
 調査報告書によると、死亡当日、朝から容体が悪化したが医療従事者が不在だった。外部へのアクセス体制もなく、救急搬送まで時間がかかった。医療体制の不備が問題だった。過去にも死亡事案は次々と発生している。入管庁によると2007年以降、17人が亡くなっている。体調不良を訴えた男性が医療体制の不備で死亡した例もあり、過去の反省が生かされない。
 深刻なのは人権意識の欠如だ。衰弱した女性がカフェオレをうまく飲み込めず鼻から噴き出したとき、介助職員が「鼻から牛乳や」と言ってからかった。女性が体調不良を訴えても担当職員は誇張だと疑い、内規に反して局幹部へ報告しなかった。「命を預かる施設」(上川陽子法相)とは程遠い。職員の差別意識を変えない限り、問題は繰り返されるのではないか。
 入管側に「過失」はあったのか。調査チームは「死亡に至った経過の特定は困難」と結論付けた。遺族にとって納得できない結果だろう。調査チームの人選の公平性をはじめ、身内の調査の限界も指摘される。
 女性の死亡の根底にあるのは長期収容の問題である。女性の収容は半年を超え長期化していた。自由を奪い施設に拘束する長期収容は、人権侵害に当たる。調査報告はこの問題に触れていない。
 長期収容の解消に向け入管難民法改正が必要だが、先の通常国会で改正案の成立が見送られた。出入国在留管理庁の佐々木聖子長官は「改正案は成立に至らなかったが、収容する人を少なくし、期間を短くするものだった」と意義を強調する。
 だが、見送られたのには理由がある。「収容する人を少なく」するため、全収容者が一時的に社会で生活できる「監理措置」を新設したが、全員収容するという原則は維持しているので根本的な解決にならないからだ。
 しかも「監理措置」は、例外的な対応と位置付けられている。高額の保証金も必要だ。国連のゴンサレス特別報告者(移民の人権担当)は「あまりにも制限が多く、社会・経済的立場が原因の差別につながる」と指摘している。
 日本は国際人権規約を批准している。外国人を含む全ての人の身体の自由を保障している。国際機関の批判を真摯(しんし)に受け止め、長期収容の解消や医療ケアの充実など制度の見直しに向け、国会で議論を尽くしてもらいたい。