<社説>タリバン復権と混乱 国外退避に全力尽くせ


社会
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 アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが首都カブールを制圧し、ガニ政権の崩壊から10日が過ぎた。

 空港周辺にはタリバンの統治を恐れ出国を望む市民数千人が連日殺到し、死者が出るなど混乱が続いている。ベトナム戦争末期に、米大使館からヘリコプターによる脱出を迫られたサイゴンの混乱を彷彿(ほうふつ)とさせる事態だ。
 アフガン在住の各国の国民や通訳などで協力したアフガン人の安全な国外退避は緊急を要する最優先事項である。各国は結束して退避支援に全力を挙げてもらいたい。
 バイデン大統領は8月に設定した米軍の撤退期限を維持する考えを強調したが、見通しが甘いのではないか。米メディアによると、タリバンは国外退避を望むアフガン人に対し、新たな国造りに必要な人材だとして空港到着を阻んでいるという。撤退期限の順守ではなく、人命を守ることを最優先させるべきだ。
 混乱の原因は米国にある。米史上最長の戦争の最終段階で「出口戦略」を誤った。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、在アフガニスタン米大使館員らが7月13日付の極秘公電で、駐留米軍が8月31日に撤退すれば直後にガニ政権や政府軍が崩壊する恐れがあると警告していたと報じた。米軍に協力したアフガン人らの退避手続きを急ぐようブリンケン国務長官らに求めていたという。
 警告されたにもかかわらず米政府は、ガニ政権とタリバンとの戦闘の見通しを誤った。タリバンによる侵攻が想定外の早さで進み、政府崩壊は予期できなかったというのは言い訳にすぎない。
 日米欧の先進7カ国(G7)は24日、アフガニスタン情勢を巡る緊急首脳会議を開き、退避支援に全力を挙げ、人道危機回避への貢献や女性の権利擁護、テロ対策で緊密に連携することを確認した。ここは国際社会の結束が求められる局面だ。
 一方、邦人と日本の協力者を退避させるため日本政府は自衛隊機を現地に派遣した。政府は出国を求める人に対し各自で空港までの移動手段を確保するよう求めている。だがタリバン戦闘員が空港に続く道路に検問所を設け、外国人を一時的に拘束する事態も出ている。丸腰の市民に自己責任で移動を求めるのは無責任である。日本政府はタリバンと交渉して安全地帯を確保して迎えに行くなど、安全で確実な方法を示すべきだ。
 タリバン政権は2001年、米中枢同時テロを起こしたアルカイダ指導者ビンラディン容疑者の引き渡しを拒んだため、米英軍の攻撃によって崩壊した。米軍はその後20年間、アフガニスタンに駐留したが、国家建設に失敗した。
 米軍撤退の教訓は何か。中央アジアの覇権争いを繰り返すのではなく、凶弾に倒れた故中村哲医師が実践した持続可能な取り組みによって国を再生させることではないか。