<社説>政府青パト事業 対策は米軍自ら実施せよ


社会
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 国民の税金を使ってやるべき事業なのか。必要性に疑義のあった「沖縄・地域安全パトロール隊」(通称・青パト事業)で、またしても妥当性を疑う事例が表面化した。

 本紙記者が今年5月下旬から8月上旬の間に計8回、巡回を大幅に早く切り上げたり、長時間休憩したりするなどの実態を確認した。
 そもそも実施後5年間の実績で米軍関係者に関する通報は0.6%しかない。35億円を超す予算を投じながら効果がないのであれば廃止するしかない。同時に米軍の犯罪行為抑止は米軍自身が責任をもって対策を取るべきである。
 青パト事業のきっかけは2016年に起きた米軍属による女性暴行殺人事件だ。沖縄本島内を100台の車で巡回し、人が集まる場所での警戒、声掛けなどを行う。
 だが5年間の実績は「米軍関係の事件・事故抑止」とはほど遠い。青パト事業による県警への通報1667件のうち、米軍関連は10件しかない。大半は泥酔者対応だ。
 警戒要員は各地を巡回し、必要があれば警察に通報するのが役目だ。捜査に関連する権限もなければ、物理的に対抗する手段も持たない。法的にも物理的にも徒手空拳の状態である。そうした警戒要員を使って米軍絡みの事件・事故が防止できないか、という事業の発想が誤っている。
 沖縄総合事務局は犯罪抑止効果は数字に表れにくく、一定の効果はあると説明する。
 沖縄県統計年鑑(2020年版)によると、米軍基地関係の事件・事故は女性暴行殺人事件のあった16年に99件で、17年は81件と確かに減った。
 しかし18年は92件、19年は85件と明確に抑止効果があったとは認められない。
 事件・事故の内訳を見ると、航空機の部品落下や廃油などの流出、演習場の原野火災といった訓練絡みのものを除く「その他事件・事故」は16年に45件、17、18年は30件前後とやや減ったが、19年は44件と同水準に戻っている。
 一方で全刑法犯に占める米軍人、軍属、その家族の割合は16年が0.6%なのに対し、17年1.1%、18、19年は0.8%で逆に増えている。
 県民を含む全刑法犯の検挙件数が減少傾向にあることを考えれば、青パト事業よりも警察をはじめとする県民挙げての防犯対策が奏功していると考えるのが自然だ。
 さらに言えば飲酒運転、住居侵入など米兵絡みの犯罪の多くは深夜から未明に起きている。青パト事業が巡回を終えた時間帯の話だ。
 本来沖縄になくてもよい米軍基地から派生する事件・事故を防ぐのは国民・県民の責に帰すものではない。
 深夜外出の制限や飲酒に関する規制など米軍自身がルールを守るよう全構成員に徹底させるのが筋だ。
 国民に無用と思わせる事業負担を継続するよりも、日米両政府で抜本的な犯罪抑止策を話し合うのが先決だ。