<社説>児童虐待過去最多 孤立防ぎ体制強化急げ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 児童相談所が2020年度に児童虐待として対応した件数の速報値は、全国で20万5029件、沖縄県で1835件に上り、いずれも過去最多を更新した。

 新型コロナウイルス禍が長引く中、在宅時間が長くなった結果、支援が届きにくい「虐待の潜在化」と虐待のリスクが高まっている恐れがある。
 虐待の被害や予兆を見逃さず、要支援者の孤立を防ぐなどの対応が遅れてはならない。児童相談所などの体制強化を迅速に進めるべきだ。
 全国の速報値は統計開始以来、30年連続で最多を更新し、今回初めて20万件を超えた。警察との連携を強めたため警察からの通告は10万3619件(7146件増)と半数を占めた。一方、学校からの通報は1万3643件で、前年度より213件減少した。
 コロナ禍に伴い、昨年は全国で学校の休校が相次いだ。感染拡大防止のため家庭訪問もままならない。家族以外の大人と接する機会が減り、子どもが外に助けを求めにくい状況になっていないか。マスク着用で子どもの表情が読み取りづらくなっていないか。
 虐待のうち、言葉による脅しや無視など心理的虐待は12万1325件(前年度比1万2207件増)と最多だった。
 心理的虐待には、子どもの前で家族に暴力を振るう「面前DV(ドメスティックバイオレンス)」が含まれ、警察からの通告が増えている。コロナ感染拡大で在宅時間が多くなった影響などで、DVの20年度の相談件数は約19万件(速報値)と前年度比1・6倍に急増したことが内閣府の統計で判明している。
 しかし、コロナ禍の影響について厚生労働省は「現時点で感染拡大との間に明確な関連性は見られない」という。子どもからのSOSを見逃していないか実態を早急に検証するべきだ。
 厚労省の死亡事例検証報告によると、07年~19年3月までの、ネグレクトが死因の原因は200人。うち生後0日での死亡事例は53人。死亡時点で実母を支援する人の有無ついては、全体では約半数に対して、生後0日の死亡事例では約2割にとどまり、「社会的孤立が顕著」とも報告された。
 19年度の死亡事例は78人で、心中を除くと57人。うち0歳が28人と全体の約半数を占めた。妊婦健診未受診の子どもが20人いた。孤立を防ぐためにも、児童相談所の体制強化は不可欠だ。
 児童相談所で働く児童福祉司について、厚労省は22年度までに約5260人とした計画を前倒しし、21年度に達成するとしている。17年度比で約2千人増え、目標まで90人ほどとなった。
 取り組みを歓迎するが、想定外のコロナ禍の要素もある。職員の質が維持、向上されるなど実効性を伴わせることが肝心だ。関係機関は認識を共有し、迅速に対応してほしい。