<社説>デジタル庁発足 恣意的利用の監視必要だ


社会
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 デジタル庁が1日、発足した。デジタル化に関するあらゆる権限を集中させ、他省庁への業務見直しの勧告権を有するなど強大な権限を握る。

 強い権限には、その行使が適正かどうかを厳格にチェックする牽制(けんせい)役の存在が重要になる。だが、個人情報保護の仕組みは不十分なままであり、政府による恣意(しい)的な情報利用や官民癒着の恐れがぬぐえない中での見切り発車だ。監視機能の強化が必要だ。
 デジタル庁の設置は菅義偉首相の肝いりだ。「役所に行かなくてもあらゆる手続きができるようにしたい」というのは、住民サービスの側面だけを強調して聞こえはいい。
 一方で、デジタル庁は首相自らが長を務める異例の行政機関だ。民間、行政機関、独立行政法人の三つに分かれている個人情報保護法を一本化し、地方自治体の情報システムの統一を進めていく。
 行政手続きのデジタル化や利便性の名の下に、国家が全国民の個人情報を集中管理できるようになる。監視社会化への疑念が出るほど、制度の抜本的な変更を伴うことに注意しなければならない。
 膨大な情報の管理を認めるからには、運用の妥当性を第三者が評価し、不適切な事例があれば是正ができる権限を持たせることが不可欠だ。
 政府は、主に民間事業者による情報利用を監視・監督してきた個人情報保護委員会の役割を拡大し、行政分野も含めて一手に担わせると強調する。だが、同委員会は人員、予算とも小さく、どこまで拡充になるかも未定だ。捜査情報は個人情報保護委員会の監視対象から外れているなど、情報機関の情報利用を巡る監督権限にも壁がある。
 これまで個人情報保護制度は、地方自治体が「個人情報は原則、本人から直接収集」「犯罪歴や信教などの情報は原則収集禁止」などの厳格なルールに基づき、それぞれ条例で定めてきた。今後は国のルールに一元化されていく。
 デジタル庁の職員約600人のうち3割超の約200人は民間出身者だ。企業に籍を置きながらの兼業が可能となっており、商業利用を目的とした個人情報の収集や漏洩(ろうえい)の懸念が指摘されている。
 民間企業との関係では、初代デジタル相に任命された平井卓也氏は6月、東京五輪・パラリンピックで使用する健康管理アプリの開発を巡り、「(発注先を)脅しておいた方が良い」「ぐちぐち言ったら完全に干す」などと発言していたことが問題となった。
 その後の調査で、内閣官房幹部が親しい民間事業者を内部のプロジェクトチームに引き入れたり、職員が参考見積書を別の企業に見せたりした事案も分かった。行政と業者が密接な利害関係を結び、新たな利権として官民癒着の温床となりかねない。
 国民にとって本当に信頼できる政府や情報システムであるのか。行政の透明性を担保する仕組みが必要だ。