<社説>臨時国会召集を拒否 法治主義の逸脱目に余る


社会
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 菅政権は野党が憲法53条に基づいて求めていた臨時国会の召集を拒否した。

 新型コロナウイルス対策のための補正予算編成、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正の是非を巡り国会で予算・法案審議が必要な局面である。
 内閣は臨時国会の召集を決定する法的義務がある。憲法に基づく野党の召集要求に応じないのは、憲法違反の疑いがあり、法治主義を逸脱している。三権分立をないがしろにする菅政権の独善体質は目に余る。
 憲法53条は内閣が臨時国会召集を決定できるとの規定に加え、衆参両院いずれかの総議員の4分の1以上が要求した場合「内閣は召集を決定しなければならない」と定める。立憲民主など野党4党は7月16日、憲法53条に基づく臨時国会召集の要求書を大島理森衆院議長に提出していた。
 憲法53条について加藤勝信官房長官は「召集時期については触れられておらず、内閣に委ねられている」と述べた。
 昨年6月、安倍政権が2017年に野党の臨時国会召集要求に3カ月間応じなかったことを巡る判決が那覇地裁であった。請求を却下したが「違憲の余地がある」と明記した。召集時期について那覇地裁は「仮に内閣に裁量が認められているとしても限定的なものといえる」と指摘している。
 内閣に国会の活動を止める権限はなく、国会召集の要求があれば速やかに臨時国会を開かなければならない。官房長官発言は三権分立の原則の否定につながりかねない。
 そもそも自民党の憲法改正草案には「要求日から20日以内に召集」と書き込んでいる。党の方針とも矛盾する。
 加藤氏は「補正予算審議のためには開かないが、臨時国会そのものをやらないと申し上げているわけではない」とも述べた。論点のすり替えである。
 6月に先の国会が閉幕して以来、新型コロナ対応を報告する衆参両院の議院運営委員会や内閣、厚生労働委員会の閉会中審査は開かれたが、菅義偉首相は一度も出席しなかった。
 菅首相は8月に広島、長崎両市で開かれた原爆の日の式典での読み飛ばしや遅刻に加え、記者会見など国民に向けて発信する場面での言い間違いや取り違えが後を絶たない。官邸内からも「論戦が不安だ」との声が漏れるほどで、臨時国会を召集しないのは衆院選に悪影響を及ぼさないための「菅隠し」なのか。
 自民党は今、国民に背を向けて、内輪の党役員人事と、政権の延命をかけた内閣改造に時間を費やしている。新型コロナが猛威を振るう中で政治が機能不全に陥っている。
 補正予算や法案審議以外にも、アフガニスタンからの邦人退避問題をはじめ、うるま市への陸上自衛隊のミサイル部隊本部設置など審議すべき課題は多い。直ちに臨時国会を召集すべきである。