<社説>菅首相が退陣へ 国民不在の政治と決別を


社会
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 菅義偉首相は自民党総裁選に立候補しないと表明し、首相を退任する意向だ。

 新型コロナウイルス対策を全うすることを総裁選不出馬の理由に挙げたが、腑に落ちない。コロナ対応で失政が続き党内の求心力を低下させたことが真相だろう。
 異論に耳を傾けず国会を軽視、数の力で強引に事を進めた。人事権を振りかざし官僚をねじ伏せ、行政手続きの公正さや透明性が損なわれた。沖縄については「県民に寄り添う」と言いながら、名護市辺野古の新基地建設を強行する姿勢を崩さなかった。
 安倍政権から続く日本の政治は、約10年にわたって国民不在の事態を招いた。未曽有のコロナ禍を乗り越え真に国民の命と暮らしを守る政治を取り戻さなければならない。
 安倍晋三前首相の後継を決める自民党総裁選は、菅氏が立候補表明する前から、主要派閥による「談合」によって菅氏が圧倒的に優位に立った。菅政権は「密室政治」で生まれ、発足当初から正統性が問われた。
 菅氏は政治思想家のマキャベリを好むという。派閥「談合」によって首相に押し上げられた菅氏はマキャベリの次の言葉を肝に銘じなければならなかったはずだ。「民衆に逆らい、有力者たちの好意によって君主になった一個人は、他の何にも優先して、民衆の心をつかむように努めなければならない」(「君主論」)。残念ながら、国民の心をつかむ努力が足りなかった。
 独善的な菅政治は、先の国会で如実に表れた。新型コロナウイルス感染拡大が収まらない中で、国民の命と暮らしを守るため会期を延長して徹底論議すべきだった。しかし、コロナ対策や東京五輪・パラリンピック開催の可否について討論を尽くさず閉会。五輪期間中にコロナの感染爆発を招くが、対策は後手後手に回った。憲法53条による野党の要求にもかかわらず臨時国会の召集を拒み続けている。
 国民に説明を尽くさない姿勢は枚挙にいとまがない。安倍前政権から引きずる森友・加計学園問題、「桜を見る会」問題、菅首相の長男が絡んだ総務省接待問題、日本学術会議の会員候補の任命拒否などが挙げられる。
 一方、沖縄問題でも民意をないがしろにしてきた。県内では国政選挙や県民投票で辺野古新基地を拒否する民意が繰り返し示された。だが軟弱地盤の存在で完成が見通せない中でも計画を中止しない。
 菅首相は、官房長官時代に予算と基地問題は「結果的にリンクしている」との認識を示した。「アメとムチ」の構図だ。菅氏が総裁を務める自民党沖縄振興調査会はことし7月、沖縄の新たな振興計画について安全保障と沖縄振興をリンクさせる提言を行った。
 来年、沖縄の施政権返還から50年を迎えるが、沖縄に民主主義は適用されていないかのようだ。文字通り「沖縄に寄り添う」政治が必要だ。