<社説>池袋暴走一審判決 高齢者事故防止に本腰を


社会
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 沖縄県出身の松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=同(3)=が死亡し、9人が重軽傷を負った東京・池袋の自動車暴走事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長飯塚幸三被告(90)に、東京地裁は禁錮5年(求刑禁錮7年)の実刑判決を言い渡した。

 事故を機に高齢者による運転免許証の自主返納の動きが広がった。一方、生活のため手放せない人もいる。
 免許返納後でも交通の利便性を確保するなど、支援態勢を高めることが必要だ。最優先は事故防止である。悲劇を繰り返してはならない。高齢者の事故防止に本腰を入れるべきだ。
 判決は、飯塚被告が約10秒にわたりブレーキと間違えてアクセルを踏み続け、最大時速約96キロまで加速させた過失が原因と認定した。
 池袋暴走事故は2019年4月19日に起きた。その後も事故は絶えない。75歳以上のドライバーが最も過失の重い「第1当事者」となった交通死亡事故は、20年は全国で333件(前年比68件減)。運転免許保有者10万人当たりの件数は5・6件で、75歳未満の2・7件と比べ2倍以上だ。車やバイクによる交通死亡事故2408件のうち13・8%を占め、高齢者による事故割合は高止まりが続く。
 原因はアクセルやブレーキ、ハンドルなどの「操作不適(操作ミス)」が最多の96件で全体の28・8%を占めた。
 警察庁によると、池袋暴走事故が起きた19年の自主返納数は60万1022件に上り、前年の42万1190件から急増し過去最多となった。20年も55万2381件で、うち29万7452件(53・8%)が75歳以上だった。
 沖縄県内でも19年の自主返納は前年比で約1500人増え、4960人と過去最多。20年は4218人だった。
 返納者の多くは池袋の事故を我がことと捉えたからではないか。一方、交通手段を失えば生活が困るため返納できなかったり、説得に応じないことに家族が悩んだりする事例もある。
 事故当時87歳の飯塚被告は仕事や食事で出掛け、「自立した生活を送るために車が必要だった」と法廷で語った。
 20年6月には改正道交法が成立し、過去3年間に信号無視などの違反歴がある75歳以上への技能検査が義務付けられた。自動ブレーキなどを搭載した安全運転サポート車(サポカー)限定の免許創設など法整備は進んだが、いずれも規制が軸である。
 県内では、免許返納者はバスやモノレールの運賃が半額になるなど優遇措置を受けられる。だが、措置の恩恵も一部の地域に限られ、沖縄全体の実態に即してはいない。
 政府や自治体は高齢を理由に交通手段を規制するのではなく、コミュニティバスの充実や、返納しやすい交通環境の整備を急ぐべきだ。