<社説>子の貧困最終評価案 県民の機運後退させるな


社会
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 県子どもの貧困対策推進会議(議長・玉城デニー知事)は、2021年度が最終年度となっている子ども貧困計画の最終評価報告書案を示した。計画に掲げた41指標の進捗(しんちょく)について「達成」と「改善」が9割を占めると判断したが、沖縄の社会状況が前進したという実感は乏しい。

 むしろ長引くコロナ禍で経済的に厳しい家庭ほど苦境に追い込まれている。居場所づくりや学習サポートといった子どもたちへの支援が届かなかったり、地域の支援活動の運営維持が難しくなったりする問題が出ている。
 識者からは「立ち上げ時と比べて熱量が落ち、惰性で行っている施策もある」(島村聡沖縄大教授)と推進体制への厳しい指摘もある。県民の間に高まった機運を後退させてはならない。これまでの施策の効果や体制をつなぎ止められるのか正念場にあるという危機感を持ち、次の計画の方向性を示す必要がある。
 県は16年に沖縄の困窮世帯の割合を29.9%と算出した。その後の調査で「未就学児」は22.0%、「小中学生」は25.0%、「高校生」は20.4%で推移。報告書案は、困窮世帯の割合は「全てのライフステージで改善している」とした。
 しかし、直近ではコロナを受けて非正規労働者を中心に解雇・雇い止めがあり、失業率の上昇傾向など雇用情勢が悪化している。コロナ下の困窮世帯の実態把握や家計支援に関する視点が必要だ。
 計画で掲げた指標の進捗では、「高校中退率」「不登校生の相談・指導の割合」「就学援助世帯の児童で虫歯未受診の割合」が、期間中に数値が悪化した「後退」の判断となった。41指標のうち三つとはいえ、健康格差や学業離脱を防ぐことは、貧困の連鎖を考える上で最も注力すべき取り組みだ。この指標が後退したことは重く受け止めなければならない。
 このうち、就学援助世帯の児童で虫歯未受診の割合は19年に75.1%だったのが20年は80.2%に悪化した。新型コロナ感染拡大の影響で歯科受診控えが起きていることなどが要因という。児童の成長にも新型コロナの影響が及んでいることが見えてくる。
 県の子どもの貧困対策は翁長雄志前知事が旗を振り、部局横断の推進会議を組織し、都道府県別では初めて県独自に貧困率を算出した。貧困の連鎖を止めるという思いを多くの大人が共有し、行政を超えた県民運動となった。
 今後は、家族やきょうだいの世話を担う18歳未満の「ヤングケアラー」支援など、新たに見えてきた問題に取り組む必要もある。現状でも現場はマンパワーが圧倒的に不足し、活動の財源や待遇も十分とは言えない。
 県は子どもの貧困問題の解消を次の10年の沖縄振興の柱に位置付け、人員や体制の拡充を図る明確な姿勢を打ち出してもらいたい。