<社説>敬老の日 生きがい実感する社会に


社会
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 きょうは「敬老の日」。アジア太平洋戦争を生き抜き、日本の激動の戦後を発展へと導いたお年寄りにまずは深く感謝したい。

 厚生労働省によると、全国の100歳以上の高齢者は過去最多の8万6510人に上り、51年連続で増加した。県内も増えて1269人に上る。
 「人生100年時代」と言われる。長生きする人々が増えていることは、豊かで平和な社会であることの証しである。ただ重要なのは暮らしの質だ。高齢になっても健康であり続け、人とつながり孤立せず、生きがいを実感できる社会の実現こそが肝要だ。
 長生きとともに働く高齢者も増えている。2020年の15歳以上就業者6676万人のうち、65歳以上は906万人を占めている。1986年に制定された高齢者雇用安定法は、定年の廃止や延長、継続雇用制度の導入のいずれかにより、希望者全員を65歳まで雇うよう義務付けている。
 これが改正され、今年4月からは70歳まで働けることが努力義務となった。政府は将来、さらに強く70歳雇用を求める見通しだ。背景には、団塊世代の退職と少子高齢化に伴う人手不足がある。政府は元気な高齢者に、働き手とともに、社会保障制度の支え手の役割も期待している。
 この際、重要なのは、高齢者が仕事などを通して、いかに生きがいを実感できるかだ。東京都健康長寿医療センター研究所が実施した調査では、高齢者のうち金銭だけを目的に働く人は、生きがいを求めて働く人よりも健康リスクが高いとの結果が出た。
 調査で「金銭目的」は「生活のため」「借金返済」「小遣い程度の収入」と定義。「生きがい目的」は「健康のため」「生きがいを得たい」「社会貢献・社会とのつながり」とした。金銭のみが目的と答えた人は、生きがいを目的とした人に比べて健康感の悪化リスクが1・42倍、生活機能の悪化リスクが1・55倍だった。
 同研究所は、金銭のみを目的に働く人は、より多くの収入を得るため「長時間」「危険」「重労働」の仕事に従事して心身の負担が大きい可能性があり、健康に働くための相談窓口や貧困対策などのセーフティーネットの充実が必要だと指摘している。
 健康に働くなど生きがいを実感できる、心身ともに健やかな健康長寿が大きな課題だ。沖縄は、事業所の定期健康診断で何らかの「異常」の所見があった人の割合を示す「有所見率」が2020年は69・5%で、統計のある1992年以降で最高値を更新し、10年連続で全国最悪だ。健康長寿を実現するには、働き盛りのときから食や生活の習慣に注意する必要がある。
 単身化が進み、配偶者や子どももいない高齢者が増えている。また、コロナ下では人との会話や触れ合いを自粛せざるを得ない。地域の人々が普段から関係を築くなど孤立させない取り組みが求められる。