<社説>東電・柏崎刈羽報告書 原発稼働の適格性ない


社会
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 東京電力は福島第1原発(福島県)での事故をどう受け止めているのか。一歩間違えば大惨事を引き起こすのが原発だ。それを預かる事業者として、対策がずさんだと自ら認めたからだ。

 核物質防護の不備を受け、今年4月に原子力規制委員会から運転禁止命令を受けた柏崎刈羽原発(新潟県)について、東電は報告書を規制委に提出した。内容は対テロ意識の低さを認め、コストを優先して安全策をおざなりにしたと取れる内容だ。
 報告書からは原発事業者として、東電の適格性のなさが改めて浮き彫りになった。東電に原発を任せるのはこれ以上望めない。廃炉を含めた安全確保を最優先すべきだ。
 柏崎刈羽原発で問題になったのは、IDカードの不正利用や侵入検知器の損傷による防護設備機能の一部喪失の2点が挙げられている。
 IDカードの不正利用では、テロ目的などの侵入を防ぐため身分証明が求められる区域や、稼働に当たっての中核となる中央制御室まで不正侵入が認められた。
 いずれも同僚らのカードを借用したとされるが、報告書は「社員は内部脅威になり得ないという思い込みがあった」としている。例え同僚であろうと、本来立ち入ることができない人物の不正侵入が常態化していたと疑われる。
 より重大なのは防護設備機能の一部喪失に対し、安全性への懸念を放置したことだ。
 福島第1事故後の経営状況を踏まえて設備更新せず、他の原発より設備の使用期間が長期化した。保守管理を受託する会社から品質維持を懸念する説明が繰り返された。
 報告書は明確に記していないが、巨額となる福島第1の廃炉、補償費用が経営を圧迫し、安全策を含め柏崎刈羽に投入すべき予算措置を怠った可能性がある。実際に2020年度の防護設備のリース契約料は15年度比で10分の1に減ったと報告書自体にある。
 桜井雅浩柏崎市長が「表面上の原因分析はあるが、根底にある部分を表現しているものはない」と批判したのは当然である。
 柏崎刈羽の再稼働に向けた審査で「経済性を優先して安全性をおろそかにしない」と誓ったのは、ほかならぬ東電だ。実際には安全よりコストを優先した体質が残り、福島第1の教訓が全く生かされていないことを示している。
 今夏に発表した東電の経営再建計画では、柏崎刈羽の再稼働を「2022年度以降」と掲げている。現状では再稼働以前の問題として、立地地域住民の理解は得られまい。
 ここまで東電が原発に固執するのも、国が原発再稼働を認めるからだ。自民党総裁選に立候補する4氏はいずれも再稼働を容認している。
 目先のコストでなく、将来にわたる国民の安全を考えるなら「脱原発」こそが最善の道である。政官財一体となった議論が求められる。