<社説>岸田新総裁人事 「改革」は名ばかりか


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 「改革」は名ばかりか。岸田文雄自民党新総裁による党・内閣の布陣は、後退とすら言える内容に終始している。

 枢要ポストを安倍晋三前首相、麻生太郎副総理兼財務相、甘利明税制調査会長の「3A」に配慮した形で配分した。国民の声に応えられる陣容とは言えず、逆に3Aの「傀儡(かいらい)」とも言われかねない。
 このまま首相指名、組閣に進むのか。政治とカネをはじめとする自民党の問題に岸田氏が正面から向き合えるか、リーダーシップを発揮できるか、国民が注視していることを肝に銘じてもらいたい。
 新幹事長の甘利氏には、早くも野党から国会招致や調査チーム設置の声が上がる。
 原因は2016年に発覚した、都市再生機構と建設会社の補償交渉に絡み、甘利氏と秘書に少なくとも現金1400万円が渡った問題だ。
 甘利氏自身が現金を受け取ったと認めたが、「議員権限に基づく影響力の行使」という構成要件を満たさず、あっせん利得処罰法の適用は見送られた。受け取った現金は寄付として処理したという。
 抜け穴の多い「ザル法」に守られた形だ。甘利氏は経済再生担当相を辞任したものの、直後に体調不良を理由に国会を休んだ。会見も開かず何ら説明責任を果たしていない。
 このような人物を巨額の政党交付金、つまり税金を原資とする金を差配する役職に就ける自民党の見識を疑う。
 政調会長に就く高市早苗氏は、そもそも政策責任者としてふさわしいのか。自民党総裁選の論戦で、高市氏の主張のうち見過ごせないものがある。敵基地攻撃能力の保有だ。
 強力な電磁波を敵国の高高度上空で発生させ、基地機能を喪失させるというものだ。電磁波を発生させるのに必要なのは核爆弾である。高市氏の主張は日本の核保有と先制攻撃を意味している。
 オバマ氏が、米大統領として初めて広島を訪問した際は広島選出の岸田氏が大きな役割を果たしたとされる。高市氏の人事は岸田氏の従来の姿勢と相反するものだ。
 政権の要となる官房長官は加計学園問題で文科省のずさんな調査を追認し、再調査に追い込まれた松野博一元文科相だ。松野氏は安倍前首相が会長を務める保守系超党派議連「創生日本」のメンバーだ。改憲を主張する安倍氏に思想的に近く、ここでも安倍氏への配慮が見え隠れする。
 しかも森友・加計問題は国民がいまだに安倍前首相の説明に納得していない。その当事者たる松野氏を政権の看板にすることは、森友・加計はこれ以上説明を要しないという政権の意思表示なのか。
 岸田氏は新総裁選出直後の記者会見で「(党改革への)思いは1ミリたりとも後退してない」と述べた。
 その言葉が本当であるなら、まずは甘利氏、安倍氏に説明責任を果たすよう求めるべきだ。一国を預かるリーダーとして最低限の仕事だ。