<社説>美謝川切り替え強行 工事中断し協議せよ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に伴い、沖縄防衛局が美謝川の水路切り替え工事に着手した。実施設計と森林の伐採などについて県との協議が継続する中での着手である。

 切り替え工事着手に向けて日米の合意が整い、近く着手されるとの見通しが出る中、県は防衛局に対し、協議が調うまで着手しないよう求めたばかりだった。玉城デニー知事が国による協議の「一方的な打ち切り」と批判したのは当然のことだ。
 環境への配慮や防災の観点からも県は協議の継続を求めている。国は一日も早く工事を止め、協議の席に再びつくべきだ。
 美謝川は名護市管理の辺野古ダムからキャンプ・シュワブ内を通り、大浦湾へと流れ出る。新基地建設に伴う埋め立てにより大浦湾側の河口部がふさがれるため、国は水路や河口の切り替えを計画している。切り替えには実施設計や環境保全対策について県との協議が必要だ。
 県は国との協議で保全措置に疑義を指摘していた。林地開発行為についても県は国からの提出書類に不足を挙げ、そろえるよう求めていた。
 それにもかかわらず国は、保全措置について「県との間で十分な質疑応答、意見交換がなされた」とし、林地開発については「さらに協議すべき事項はないと判断した」と一方的に突っぱねた。何をもって承認されたとみなすのか。根拠すら示されないままの工事の強行である。行政手続き上、問題がある。
 もう一つ問題がある。稲嶺進前名護市長は名護市の条例に沿って国と市は「協議が必要」と主張していたが、移設を事実上容認する渡具知武豊市長は「(関連する)洪水吐(ばき)付け替え工事であれば協議不要」と説明する。市長によって条例の解釈が変わることがあってはならない。
 岸田文雄首相は組閣後の記者会見で国民が望む政策を政府が選択しない場合の説明責任について問われ「結果のみならず、結論に至るプロセスをしっかり説明する。結論に対して背景と言える要素についてもしっかり説明することは大変重要な姿勢であると認識している」と答えた。
 そうであるならば、今回の美謝川の工事着手を巡る国の対応は、首相がとうとうと語る説明責任の基本姿勢から大きくそれたものであると言って間違いない。
 辺野古新基地建設について県民はこれまでの全県選挙などで、埋め立てに反対する選挙結果を何度も示してきた。これが国にことごとく無視されているのが現状である。
 衆院解散後の総選挙で沖縄の各選挙区では辺野古への姿勢が問われることになろう。仮に工事着手で埋め立て工事全体の進行を印象づけ、選挙での争点化を避ける狙いがあるならば、逆効果である。一刻も早く工事を中断し、県との協議を尽くすべきだ。