<社説>岸田首相所信表明 沖縄だけを取り残すな


社会
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 岸田文雄新首相は約6900字にわたる所信表明で「信頼」という言葉を5回使った。言行不一致や説明責任を全うしなかった安倍・菅政治と決別し、国民からの信頼を取り戻す決意と受け止める。

 だが沖縄に関しては、額面通りに受け取れない。各種選挙で辺野古新基地への反対を示し続けた沖縄の民意と懸け離れ、やはり「辺野古推進」を明示したからだ。
 新型コロナウイルス対策や経済回復など、国民と共に歩む政権であると主張するならば、沖縄だけを取り残すような方針は撤回すべきだ。
 所信表明で首相は「日米同盟の抑止力を維持しつつ、丁寧な説明、対話による信頼を地元の皆さんと築きながら、沖縄の基地負担軽減に取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古沖への移設工事を進めます」と述べた。
 新基地の土台を文字通り揺るがす軟弱地盤の存在に目を背け、工事を強行するのにどうして信頼が得られよう。
 歴代政権が呪文のように唱えた「丁寧な説明」という言葉を使ったが、これまで果たされたことがあったか。地元の信頼を得たいのであれば、まずは辺野古新基地を断念し、普天間飛行場の閉鎖へ米政府と交渉するのが筋だ。
 首相はアフリカのことわざを引用し「遠くまで行きたければみんなで進め」と国民の協力を呼び掛けた。
 しかし基地なき沖縄という戦後ずっと続く目標に向かっては「みんなで」進むつもりはなさそうだ。沖縄に言及した部分で最初に抑止力維持を掲げたように、あくまで日米同盟の強化が主である。「みんな」に沖縄は含まれるのか。
 同時に安全保障政策で海上保安能力やミサイル防衛能力の強化も挙げた。
 いずれも沖縄にとって見過ごせない問題だ。
 尖閣周辺を巡る中国との関係改善にはまず外交努力が必要であろう。ミサイル防衛能力に関しては、総裁選でも議論された「敵基地攻撃能力」の保有を含めて議論する考えを示したものだ。自衛隊のミサイル部隊は奄美から八重山まで連続して配備される計画が進む。有事の際に再び沖縄を戦場にする計画としか言いようがない。沖縄県民からすれば断じて認められない。
 新自由主義や自己責任といった名目の下、日本社会は分断と孤立が進んできた。それを意識してか首相はコロナ対策などで国民の切実な声に耳を傾け、経済的格差をなくす「新しい資本主義」との表現で分断を解消すると明言した。
 米国追従の歴代政権は核兵器禁止条約への参加も消極的だったが、「広島出身の総理大臣」として核兵器のない世界を目指すとも述べた。
 広島は、沖縄、長崎とともに国内でも特に平和を希求する地域である。広島から誕生したリーダーであればこそ、平和という芯に貫かれた政権運営に当たってもらいたい。