<社説>記者にノーベル平和賞 権力に屈しない姿勢貫く


社会
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 今年のノーベル平和賞は強権政治と対峙(たいじ)するロシアとフィリピンの記者に贈られることが決まった。ジャーナリズム活動への平和賞授与は第2次大戦後初めてだ。

 受賞者は圧倒的な権力に目の敵にされながら、毅然(きぜん)と政権批判の先頭に立ってきた。人権を侵害する強権に立ち向かう報道姿勢は、正義の追求や人権擁護に欠かせないものであることが国際的に認定されたと言える。
 ジャーナリズムへの平和賞授与には、その顕彰だけでなく、表現の自由が危機的な状況にあるとのメッセージが込められている。
 賞を受けるロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長はプーチン政権に対抗し、編集活動を20年以上、牽引(けんいん)してきた。受賞についてムラトフ氏は「私にではなく、ノーバヤ・ガゼータと人権や言論の自由のために犠牲になった仲間への賞だ」と語り、厳しい統制下で凶弾に倒れた同僚らをたたえた。
 もう一人の受賞者はフィリピンのドゥテルテ政権に批判的なニュースサイトを率いるマリア・レッサ氏だ。高圧的な犯罪対策を批判する報道などによって逮捕も経験したが「沈黙してはいけない」となお弾圧に屈しない姿勢を鮮明にしてきた。強権下にあって言論や表現の自由を求める人々にとって、2人が率いる報道機関は自由を守り抜く砦(とりで)のような存在と言えるだろう。
 政権に都合の悪い報道を弾圧する動きはこれらの国に限ったことではない。中国共産党に批判的だった香港の新聞「蘋果日報(リンゴ日報)」は指導部の締め付けで廃刊に追い込まれた。都合の悪い報道を「フェイクニュース」と切り捨ててきた米国のトランプ前大統領の流儀に似せてか、先進諸国でも会見からの記者の締め出しなど、報道の自由が脅かされている。
 海の向こうでのみ起きていることではない。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」による報道の自由度ランキングで日本は2010年に11位だったが、今年は67位。菅義偉前首相の官房長官時代には東京新聞記者の質問を制限する問題があった。都合の悪い質問には答えず、取材機会を奪う傲慢(ごうまん)な姿勢は、海外で強権を振りかざす指導者のそれと通底する。取材する側の視点も問われている。
 会員制交流サイト(SNS)では誤った情報に基づき、事実をゆがめる言論が拡散されるフェイクニースの問題がある。報道機関にはこれらをただす役割も求められている。
 ノーベル賞委員会のレイスアンデルセン委員長は平和賞を記者に贈ることについて「表現の自由は今や絶滅危惧種となった」との危機感があると明かす。報道は「民主主義発展の土台」とも強調した。今回の平和賞を機に表現の自由への理解が深まり、民主主義の根幹をさらに太く、強化していく必要がある。