<社説>新聞週間始まる 足元の事実を掘り起こす


社会
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 報道の自由が世界で危機にひんしているといわれる。今年のノーベル平和賞は、選考する委員会の危機意識を反映してロシアとフィリピンで強権政治を批判するジャーナリスト2氏に贈られた。

 新聞週間が始まったことを契機に、改めて報道の自由をどのように保障していくか、ともに考えたい。
 まず報道の自由を支える基盤は、広範な市民の支持である。そのためには足元の事実を掘り起こす取り組みが欠かせない。権力に迎合せず、市民が必要とする情報を正確に届けることがジャーナリズムに課せられた使命と考える。
 この1年、沖縄では報道の役割を再確認する出来事が続いた。
 県民の健康に関わる重要な事案であるにもかかわらず、報道がなければ事実そのものが隠されていたのが一連の有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)を巡る問題だ。
 普天間飛行場からPFASを含む泡消火剤の流出を受け、本紙が付近の河川で採取したサンプルから米国の暫定指標値を上回るPFASの一種PFOA(ピーフォア)とPFOS(ピーフォス)が検出された。
 うるま市の米陸軍貯油施設からPFASが流出した際も同様に、本紙取材によって周辺排水路から採取した水などから高濃度のPFASが検出されたことが分かった。
 航空自衛隊那覇基地の泡消火剤流出事故では、当初那覇基地がPFOSを含まないと説明していた。しかし周辺に飛散した泡にPFOSが含まれるという本紙報道などにより調査を始め、最終的に当初の説明を撤回した。PFOS含有を認めただけでなく、政府として全国の自衛隊基地で調査を実施した。
 米軍や自衛隊という機密情報を持つ組織に対し、国民が対抗するには限界がある。人々の「知る権利」に応え、国民に代わって事実を積み重ねることが新聞の役割である。
 米軍基地周辺住民の思想信条にまで立ち入る可能性のある土地利用規制法をはじめ、私権制限と公益が衝突したコロナ禍での緊急事態宣言など、安全保障や緊急事態を名目にした住民監視や私権制限が進むことを懸念する。
 国会での虚偽答弁や公文書の改ざんをはじめ、安倍・菅政権に象徴されるように国内では民主主義そのものが揺らぐ事態もある。国境なき記者団による報道の自由度ランキングで67位の日本は「記者が権力監視の役割を十分果たすことが困難だ」と指摘されている。権力を監視するというジャーナリズムが果たすべき課題は山積している。
 ノーベル賞を受賞した2氏に限らず、香港や先進諸国でも報道の自由への侵害は続く。軸足を沖縄に置く本紙としては米軍基地問題など地元の課題を追い続ける。
 事実を追求し、県民の負託に応える新聞であることを新聞週間に改めて誓う。