<社説>国内最古着色装飾品 豊かな精神文化の証しだ


社会
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 沖縄の歴史、私たちの祖先を知る上でまた一つ新たな扉が開かれた。南城市玉城の観光施設「ガンガラーの谷」内のサキタリ洞遺跡で、国内最古とされる着色装飾品が確認されたからだ。

 調査した県立博物館・美術館が指摘するように、沖縄島に住む人々が「古来、豊かな精神性を持っていたこと」の証しであろう。
 調査・研究の深まりにより、はるか昔の沖縄人の暮らしぶりが明らかになることを期待する。同時に旧石器時代の遺物の宝庫ともいえる同遺跡をはじめ、県内の貴重な遺跡群を教育の場、さらには観光産業とも連携して活用していく方策が求められる。
 サキタリ洞遺跡で確認されたのは、約2万3千年前の赤く着色された貝製ビーズだ。ニシキツノガイで作られ、ベンガラ系とみられる酸化鉄由来の赤い顔料が確認できた。
 沖縄だけでなく国内でも顔料をどのように使っていたか定かではない。その一端が装飾品という形で明らかになったことは重要だ。
 「(旧石器時代に)世界的には死者の埋葬に当たり、各地で酸化鉄を素材とする赤の顔料の使用が認められる。血の色であり、生命の色である赤に、再生の祈りを込めたものであろう」(矢島國雄明治大名誉教授、1997年「先史時代の色彩」)という指摘がある。サキタリ洞遺跡の装飾品と直接結び付く論考ではないが、サキタリ洞遺跡で過ごした人々も何らかの意図をもって装飾品に着色した可能性は捨てきれない。
 サキタリ洞遺跡では人骨だけでなく、約2万3千年前とされる世界最古の釣り針、約9千年前とされる沖縄最古の土器などが見つかっている。
 県立博物館・美術館の調査では、サキタリ洞遺跡の人々は釣り針を使って魚を取り、貝から装飾品をつくっていたことが分かる。残されているモクズガニやカワニナの殻などから、当時の人々はそれらが旬となる秋ごろに食べていたことも明らかにされた。
 身近な素材から道具をつくり、身の回りを飾って美食を楽しんだ人々の姿が浮かび上がる。後に花開く琉球王朝文化に「DNAの記憶」が受け継がれたと考えれば、サキタリ洞に沖縄の精神文化の源流の一つがあったといえないか。
 沖縄は石灰岩などがあるアルカリ性土壌のため人骨や遺物が溶けず、残りやすい環境にあるという。
 こうした地の利を生かして、県内に残る遺跡を教育に活用し、次代の研究者を育てる環境をつくってもらいたい。沖縄はアジア、世界に広がる人類史研究の拠点となる可能性も秘めている。
 またガンガラーの谷のように、文化遺産を身近に感じられる工夫も重要だ。サキタリ洞で過ごした人々のような「豊かな精神性」を追体験し、沖縄の新たな魅力を知ることは持続可能な観光産業へとつながるはずだ。