<社説>改憲勢力3分の2超 国会で熟議を求める


社会
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 衆院選の結果、自民、公明両党と日本維新の会など「改憲勢力」の議席数が国会発議に必要な定数の3分の2(310議席)を超えた。

 岸田文雄首相は選挙期間中、改憲に積極的に言及せず、論戦は低調だった。数の力によって改憲論議を進めることは、避けなければならない。改憲勢力は、憲法を改めることでしか問題が解決しない理由を明確にした上で、国会で熟議を尽くすべきだ。
 自民党は(1)9条への自衛隊明記(2)緊急事態条項の新設(3)参院選「合区」解消(4)教育無償化・充実強化―の改憲4項目をまとめている。
 このうち、参院合区の解消と教育無償化は憲法を変えるまでもなく、法律で対応が可能だ。
 自衛隊の明記と緊急事態条項は徹底した論議が必要だ。9条に自衛隊を明記することによって、戦力の不保持、交戦権の否認といった平和憲法の根幹が損なわれる。
 日本世論調査会が実施した「平和」に関する全国郵送世論調査(2021年6~7月実施)によると、自衛隊の在り方については「憲法の平和主義の原則を踏まえ、『専守防衛』を厳守」の74%に対し「9条を改正して『軍』として明記」は21%にとどまった。
 私権制限を伴う緊急事態条項は、個人の権利尊重や、法によって国家権力を縛る「立憲主義」といった、憲法の理念を根本から変えることになる。新型コロナウイルス禍を踏まえ、自民党内には内閣に強い権限を与える緊急事態条項新設を求める声が強まっている。しかし、改憲しなくても新型コロナ特措法があり、個別の法律で対応できる。
 連立を組む公明は、自衛隊明記や私権制限を伴う緊急事態条項新設に慎重で、必要な条文を加える「加憲」を掲げる。維新は公約に「改憲に正面から挑む」と明記した。
 先の国会で改憲手続きに関する改正国民投票法が成立した。改正法はCM・広告に規制がない。資金力にものを言わせて一方的な主張を大量にCMなどで流すことで、国民の投票行動を左右する恐れがある。
 さらに一定の率に達しない場合は無効とする「最低投票率」が設定されていない。最低投票率の設定は多くの識者から指摘されたが、改正法を審議する衆参両院の憲法審査会での議論に全く反映されなかった。
 憲法は施行から74年を迎えた。戦争放棄の9条を掲げ、平和主義を基本原則としている。憲法が掲げる「平和」とは、軍事力に頼らない国際平和主義である。戦争や圧政などによる恐怖や、貧困、飢餓、人種差別などの「構造的暴力」を克服する概念と言える。
 米中対立が激化する中で、日米軍事同盟を強化すれば相手国との緊張を高め「安全保障のジレンマ」に陥る。国際社会の緊張緩和と信頼醸成のため、平和憲法の原則の実践こそ求められる。