<社説>困窮相談大幅増 実態把握と支援を急げ


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 那覇市就職・生活支援パーソナルサポートセンターへの相談が大幅に増えている。2020年度は前年度の8倍となる約8千件に上った。21年4~10月も既に5千件あり、20年度を上回るペースだ。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で失業したり収入が減ったりし、生活苦に陥る世帯が急増したためだ。深刻な事態は那覇市に限らない。県全体、全国的問題であるが、特に1人当たりの県民所得が全国最下位の沖縄では、低所得層へのコロナ禍の打撃は大きい。国、県、市町村は一体となって実態を把握し、現状に即した支援を急ぐべきだ。
 同センターによると、新型コロナの影響で収入が減ったという自営業や非正規の従業員からの相談が多く、業態は飲食や観光関係が主だという。これまでの相談は年間千件程度で中高年の相談が多かったが、コロナ以降は20~30代の相談が増えた。
 内容は「家賃が払えない」「仕事がない」「電気やガスを止められた」「食べるものがない」などで、切迫した困窮ぶりがうかがえる。センターの責任者は「これまで何とか食べていた人が、コロナの打撃で仕事が激減し、食べるところから困っているケースが増えている」と説明している。
 最も心配なのは子どもを抱える世帯の生活苦だ。県は16年に子どもの貧困割合を29.9%と算出した。その後の調査で「未就学児」は22.0%、「小中学生」は25.0%、「高校生」は20.4%で推移し改善の兆しが見えていた。
 しかし近年はコロナ禍によって非正規労働者を中心に解雇・雇い止めが相次ぎ、失業率が上昇傾向にあるなど雇用情勢は悪化している。子どもを育てている世帯の赤信号を見逃さず、地域や行政が迅速に支援できる態勢を築かねばならない。
 そもそも、沖縄は1人当たりの収入が低く、観光業が低迷すると雇用や収入が不安定になる構造的問題を抱えている。沖縄県の平均給与月額は22万円。全国で相対的貧困ラインとされる23万円より少ない。脆弱(ぜいじゃく)な経済生活の改善はコロナ前からの課題だ。
 コロナで沖縄は長期にわたる緊急事態宣言が適用された。それが経済の構造的問題に追い打ちを掛けた。全国の中でも困窮度合いは深刻であるのは間違いない。コロナ対策費用の捻出などで県や市町村の財政も逼迫(ひっぱく)している。それらを考慮し、政府は特別に予算を組んで沖縄の困窮世帯への支援に乗り出すべきだ。
 政府は経済対策の柱として18歳以下の子どもに10万円を給付する方向で調整している。ただ最も重要なのは実態に即した支援である。家賃が払えない人には住居確保給付金を支給したり、食べる物がない人には食料を提供したりするなど、まずは切迫した困窮者への支援を官民挙げて急ぐ必要がある。中長期的には安定的な雇用確保と給与を上げる取り組みが求められる。