<社説>過去最大の経済対策 なぜミサイルが必要か


社会
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 政府は新型コロナウイルス禍を受けた経済対策を決定した。財政支出は過去最大の55兆7千億円、事業規模は78兆9千億円に上った。

 岸田文雄首相が掲げる「分配政策」を柱に据え、子育て世帯や所得が低い家庭などを幅広く支援する。早くも効果を疑問視する声が上がっている。危機的な財政状況の中で、新たな借金をしてまで必要な経済対策なのか。政府は政策目的とその効果を説明する責任がある。
 主要な4分野の一つに「自衛隊の安定的な運用態勢の確保」を明記した。経済対策の名の下にミサイル装備拡充など防衛費を増額するのは牽強(けんきょう)付会であり、認められない。国会で徹底的に論議してもらいたい。
 最大の柱である18歳以下の子どもを対象にした10万円相当の給付は、所得制限(年収960万円未満)を設けた上で実施する。主な稼ぎ手の収入で線引きしたため「共働きの高収入世帯が受け取れる」との批判が起こっている。
 給付金の効果も疑問だ。現金給付した場合、過去の例からすると、実際に消費に回るのは3割程度で、消費の押し上げにつながらず経済効果が弱いと指摘される。
 原油価格の高騰を踏まえ、ガソリンなどの小売価格を抑えるため、石油元売りへの資金支援も行う。だが、元売り各社が補助金の分だけ卸価格を下げても、ガソリンスタンドの店頭価格は小売店が決めるため、店頭価格が抑制されるのか分からない。
 なぜガソリンのみ対象なのか。原油高の影響を受けるのはガソリンに関連する業界だけではない。電気、ガス料金も値上がりする見込みだ。島しょ県の沖縄にとって深刻な問題である。
 何よりも、国内の感染者数が激減し、各国のコロナ対策が縮小傾向にある中での大判振る舞いである。財源の大半は赤字国債(借金)の発行に頼らざるを得ない。
 赤字国債や建設国債など「普通国債」の残高は21年度末に990兆円になる見通しだ。補正予算案に伴う新たな国債発行で1千兆円を突破するのはほぼ確実で、国民一人当たり1千万円近くの借金を抱えることになる。
 今回の経済対策は「経済の底割れを防ぐ」目的で実施するはずだ。ところが柱の一つに「国家の安全保障の確保を含む国民の安全・安心」と明記している。軍備拡大を続ける中国や北朝鮮を念頭に、機雷やミサイルなどの装備を拡充するほか、哨戒機を取得し、南西諸島方面の防衛力の強化を急ぐ。21年度補正予算案で補正としては過去最大の7700億円超を計上する。
 台湾海峡で米中が衝突すれば、基地が集中する沖縄が紛争に巻き込まれる恐れがある。県民の生命・財産を危険にさらすミサイル配備を、経済対策の名目で実施するのは納得できない。岸田首相に明確な説明を求めたい。