<社説>性暴力相談が急増 被害者支援の強化拡充を


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 性暴力の被害に遭った直後から被害者を総合的に支援する県の性暴力被害者ワンストップ支援センターへの相談が過去最高だった20年度を上回るペースで増えている。

 二次被害を恐れて相談を控えるケースもあるとみられ、数字は氷山の一角である可能性にも留意しなければならない。性暴力の根絶はもちろん、被害者支援のさらなる強化に向けた取り組みを加速化させる必要がある。
 2015年の開設後、17年度の1028件が最高だったが、19年に24時間対応へ移行すると、1483件と急増。新型コロナウイルス感染拡大で外出制限の影響があったとみられる20年度は2835件と前年度の約2倍になった。本年度はこれを上回るペースだ。外出自粛によって被害が外から分からず、「性暴力・被害の潜在化」につながっている恐れもある。
 県の支援センターは相談者の診察など医療費助成について、4月に要綱を改正し、男性も対象とした。男性被害者は偏見などによってより孤立した状況に置かれるとの指摘もある。その支援を拡充する対応で評価したい。
 事案の特性から夜間や緊急の対応に備えるため、県のセンターは19年に24時間365日対応となった。20年6月時点で全国で同様、のフルタイム対応は20都道府県。病院拠点型の専用施設での運用は全国初で、先駆的な取り組みを続けてきている。男性への医療費助成の拡充に続き、より被害者の立場に立った支援体制の構築が求められる。
 相談件数の増加について県は背景を十分に分析できていないという。より効果的で即効的な支援に分析は不可欠だ。センターへの相談者は20歳未満が全体の33%を占めている。内閣府は高校生や大学生を対象にした性被害の実態調査を実施する予定だ。性的少数者、障がい児、障がい者らの被害実態を含め、被害者の要望を正確に把握した施策の実施のためにも国、県には増加要因の分析を求めたい。
 性犯罪は「魂の殺人」と呼ばれる。レイプ被害者の約半数が心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を抱えるとされるが、約8割がPTSDの診断を受けているとの専門家の指摘もある。日常生活に深刻な影響を与える。
 一方で、これまでは被害者側の責任が言い立てられるなど社会の無理解もあった。子どもを加害者にも傍観者にも被害者にもしないと国が方針を掲げる、性に関する教育の推進も欠かせない。
 性暴力・性犯罪については、再犯防止、性犯罪規定の暴行・脅迫要件の撤廃、国連子どもの権利委員会から引き上げを勧告されている13歳の性交同意年齢などの課題が挙げられる。刑法の規定については現在、法制審議会が取り扱い、議論している。被害が急拡大している現状を見れば、一刻も早く指摘されている課題を解決するべきだ。