<社説>高濃度PFAS非公表 地位協定を抜本改定せよ


社会
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 米陸軍貯油施設から有機フッ素化合物(PFAS)を含む汚染水が流出した事故で、国、県、米軍の3者が、約4カ月前に出ていた調査結果を、いまだに公表していない。結果は、貯水槽から採取した水から国の暫定指針値の約1600倍に上るPFASが検出されたにもかかわらずにだ。

 県によると、公表について米側の同意が得られていないという。日米地位協定を補う環境補足協定に基づく協議書では、立ち入り調査の条件として日米の合意に基づいて結果を公表することになっている。政府は米側の意向で公表を控えた事実はないとするが、理由を明確にしていない。
 流出した水が高濃度で汚染しているにもかかわらず、公表しないのは明らかに人命軽視だ。立ち入り調査を含め、いちいち米軍に許可を求めなければならないのは、日米地位協定が米軍の排他的管理権を規定しているからである。米軍の同意がなくても立ち入り調査をし、速やかに結果を公表できるよう地位協定を抜本的に改定すべきだ。
 PFASは発がん性など健康へのリスクが指摘されており、国際条約で製造、使用、輸出入が制限されている。2020年4月には、米軍普天間飛行場でPFASを含む大量の泡消火剤が基地外に流出した。この時も調査結果が出てから公表まで約5カ月要した。19年8月と20年1月には同飛行場で、非公表の泡消火剤流出事故が2件起きていたことが本紙による米国への情報公開請求で判明している。
 事故を防止したり、人身への影響を回避したりするための対策には、基地内への立ち入り調査と速やかな公表が欠かせない。しかし環境補足協定に基づく立ち入り調査は米軍の許可が前提で、調査結果の公表も米側の同意が必要とされるため、県は「環境補足協定が足かせ」との認識だ。
 15年に補足協定を米側と締結した際、当時の安倍晋三首相は「事実上の地位協定の改定だ」と自画自賛した。しかし今回の問題で、補足協定の限界がより鮮明になった。
 事故の原因者でありながら調査結果の公表に同意しない米軍は、傲慢(ごうまん)極まりない。その米軍に立ち入り調査や公表について裁量権を与えている日本政府も問題である。一方の県も「合意を破ると、次回から立ち入りができなくなるかもしれない」と弱腰だ。これでは政府も県も住民の命や健康を守れない。無責任だ。
 県は米軍や政府の対応を恐れず、住民の命優先で合意条件の見直しを要求し堂々と調査結果を公表すべきだ。問題への認識が甘すぎる。弱腰姿勢では信任できない。
 ドイツでは自治体が駐留米軍に予告なしで立ち入る調査権を持つ。国や県が米軍の顔色をうかがい、主体的に対応できないのは極めて異常である。政府や県が国民の命や健康を守る責任を果たすには、地位協定を抜本的に改め、従属関係を解消するほかない。