<社説>国の不承認対抗措置 制度の乱用許されない


社会
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 名護市辺野古の新基地建設を巡り、防衛省が提出した設計変更申請を不承認とした県への対抗措置として、沖縄防衛局は7日、国土交通相に行政不服審査法に基づく審査を請求した。

 私人を救済するための制度である行政不服審査法を国の機関が利用する手法は、制度の趣旨に反すると行政法の専門家などから多くの批判が呈されてきた。それにもかかわらず、これまでと同様に行政不服審査制度を使って不承認の取り消しを申し立てた。地方自治を踏みにじる制度の乱用であり、許されない。
 翁長前県政が判断した辺野古埋め立て承認の取り消し・撤回の決定の際など、沖縄防衛局はその都度、行政不服審査法による審査請求を申し立ててきた。
 一般私人では立ち得ない「固有の資格」を有する沖縄防衛局が、「国民の権利利益の救済を図る」(審査法第1条)ことを目的とする行政不服審査法を利用することは本来できないはずだ。私人へのなりすましにほかならない。
 そして防衛局の請求を受けて審査するのは“身内”の国交相である。明らかに公平性を欠いている。裁判を通さずに県の判断を国が覆せるため、国と県の対等な関係を規定する地方自治の観点からも問題にされてきた手法だ。
 玉城デニー知事が「国交相は内閣の一員として辺野古新基地建設を推進する立場であり、公平公正な判断を行うのは事実上不可能だ」と批判するように、内閣ぐるみの「出来レース」と言うほかない。
 県は沖縄防衛局が提出した設計変更に対し、軟弱地盤が最も深くまで達する地点で必要な調査が実施されておらず、地盤の安定性が十分に検討されていないことなどから「埋め立ての必要性について合理性が認められない」と結論付けた。
 これに対して防衛省は審査請求の中で、県の主張する埋め立ての必要性は最初の承認申請の際に審査すべきであり、「変更承認申請で審査すべき事項ではない」と反論しているという。
 だが、埋め立ての必要性を判断するのに必要な情報を公開せず、安全な工事だと偽って埋め立てを始めたのは防衛省の方だ。開き直りを見過ごすわけにいかない。
 沖縄防衛局は2018年12月に辺野古側海域の埋め立て開始を強行した。実はその3年前の15年の時点で、防衛省は地質調査した業者から地盤の問題や沈下の懸念を伝える報告を受けていた。
 本来は土砂を投入する前に地盤のデータを公表し、必要な設計変更の手続きをとるのが筋だ。軟弱地盤の存在を政府が認めたのは、土砂投入後の19年になってからだ。
 「後出しじゃんけん」で県民を欺いた、防衛省の不都合なデータ隠しこそが違法性をはらんでいる。問題の多い行政不服審査法の手続きで押し切ることは許されない。