<社説>北大東島自衛隊誘致 緊張をさらに高めるな


社会
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 北大東村議会が自衛隊誘致の意見書を、議長を除く4人の全会一致で可決した。開かれた場での説明も議論も全くない中での提案と可決は異様だ。議場では質疑も賛成・反対討論もなかった。与那国島、宮古島、石垣島に次いでさらに自衛隊配備が拡大すれば、沖縄全域が軍事要塞(ようさい)化する。地域の緊張をさらに高めることになってはならない。慎重な対応を求めたい。

 意見書は北大東島が安全保障の地理的観点から適地であるとした上で、誘致により災害対応や急患輸送の体制を強化できるとしている。提案者の宮城哲也村議は議会終了後「島には自衛隊は必要だ。島民が安心安全に生活できる島にしたい」と述べた。
 唐突だった今回の議会提案は、「南西シフト」を進める防衛省に「渡りに船」と歓迎されているようだ。省関係者は「第1列島線」の太平洋側にある北大東島にレーダー施設を置くことを議論していたという。南北大東島には戦前、日本軍の基地があり、空襲被害を受けた歴史を忘れてはならない。また、北大東島の南の無人島・沖大東島は米軍の射爆撃場となっており、自衛隊基地ができれば、訓練に伴う危険も懸念される。
 今回の意見書は中国脅威論を念頭に置いているとみられるが、背景には小規模離島に共通の人口減少や経済の問題があるのではないか。
 今年4月に施行された新過疎法で、沖縄県内では「中期的な人口増加傾向」を理由に北大東村と竹富町が対象自治体から外された。実際は、2020年国勢調査での北大東村の人口は590人で、5年前から6・2%減少した。過疎法の対象でなくなったことの村財政への影響は大きい。
 1人当たり所得の県内市町村別ランキングで、南北大東村は1、2位を占めてきた。所得が高いのは、基幹作物のサトウキビの栽培面積が大きい、兼業農家で他の収入もある、公共事業などで来島する人が住民登録をして滞在する、などの事情による。一方で、子どもが高校進学で島を離れることによる費用の大きさ、病気などで沖縄本島と行き来する交通費、輸送コスト高による物価高など、所得の高さ以上に生活のコストが高いという困難を理解する必要がある。
 自衛隊が配備されると一時的な建設工事で経済は潤い、人口も増えるが、長期的には厳しい。佐道明広中京大教授は「自衛隊基地のある長崎県対馬や北海道礼文島でも人口減少に歯止めが掛かっていない」と指摘している。
 災害対策も急患輸送も、自衛隊の本来業務ではない。他の行政機関が担うべきことであり、小規模離島の生活や経済も、政策によって支えるべきだ。まずは、医療や教育に関わる交通費の無料化が必要だ。自衛隊に頼らなくても安心安全に暮らせる島にすることが、新たな沖縄振興の重要な課題だ。