<社説>安倍氏の台湾有事発言 無責任な言動はやめよ


社会
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 安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と発言し、国際的な波紋を広げている。台湾と隣接し、広大な米軍基地があり、自衛隊基地が増強されている沖縄が戦場になることを想定するものであり、軍事力で他国を威嚇するあおり行為だ。沖縄県民として、このような危険極まりない無責任な言動は断じて受け入れられない。

 安倍氏は1日、台湾のシンクタンクから招かれたオンラインの講演でこの発言をした。中国政府は直ちに猛反発したが、安倍氏は3日のインターネット番組で「はっきり考えを言うことが、衝突を防ぐことにつながる。これからも言うべきことは言う」と開き直った。
 13日には、BS番組で「米艦に攻撃があった時には、集団的自衛権の行使もできる存立危機事態になる可能性がある」「ここで何か有事があれば、重要影響事態になるのは間違いない」と安全保障関連法に関連させて発言した。
 同法は、放置すれば日本の安全に影響を与えると見なされる場合を「重要影響事態」と認定し、密接な関係にある他国が攻撃を受け日本の存立が脅かされる場合を「存立危機事態」とし、自衛隊が米軍に補給や防護などを行うとされている。いずれも定義があいまいで、危うさは免れない。
 今年7月にも、麻生太郎副総理兼財務相(当時)が「台湾で大きな問題が起きれば、存立危機事態に関係すると言ってもおかしくない。日米で台湾を防衛しなければならない」「次は沖縄。そういうことを真剣に考えないといけない」と同趣旨の見解を示した。当然ながら、県内から厳しい批判の声が上がった。
 今年4月、政府が台湾海峡有事が発生した際の自衛隊に関わる法運用を本格的に検討し始めたと報じられた。米中対立の激化や中国軍の海洋進出、中国国内の人権問題などを背景に、きな臭さが増している。だからこそ、軍事的衝突など起きないよう外交努力を尽くすことが、政治家が今なすべきことではないか。
 集団的自衛権行使に道を開く安全保障関連法は憲法違反の法律である。2015年に、各界各層から巻き起こった厳しい批判、反対の声を無視して、強行採決を重ねた末に成立した。安倍氏は首相としてこの法律を成立させた張本人だ。
 戦争準備の法律を作り、軍備を増強し、「敵国」を定めて威嚇、挑発を繰り返した先に何があるのかを、私たちは歴史の教訓として知っている。安倍氏の言動は、マッチポンプで戦争に突き進んでいるようにしか見えない。
 台湾を論じる時に忘れてはならないことがある。台湾の未来を決めるのは台湾の人々自身であるということだ。他国が介入して戦火を招くようなことがあってはならない。台湾も沖縄も絶対に戦場にしてはならない。