<社説>渡具知名護市長再選 民意は新基地容認ではない


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設が大きな争点となった名護市長選は現職の渡具知武豊氏が再選された。

 今回の市長選は、2018年に大浦湾の軟弱地盤の存在が明確になってから初めての選挙だった。また19年の県民投票で投票者の約7割が辺野古埋め立てに反対の意思を示して以降、初の市長選でもあっただけに、名護市民の民意の行方に注目が集まった。
 辺野古新基地建設反対を表明して選挙戦に臨んだ新人の岸本洋平氏が敗れたことで、名護市民が建設を容認したとはいえない。再選を果たした渡具知氏はこれまで一貫して建設の是非には踏み込まず「国と県の係争が決着を見るまではこれを見守るほかない」との立場を示してきたからだ。
 政府はこの点を十分に留意すべきである。県民投票で示された、新基地建設に反対する沖縄の民意をくみ取り、建設を直ちに中止すべきであることに変わりはない。
 名護市民の民意はむしろ新基地建設に否定的である。16、17の両日に琉球新報社と沖縄タイムス社、共同通信社の3社合同で実施した電話世論調査では、米軍普天間飛行場の辺野古移設について「反対」「どちらかといえば反対」の合計が62.1%に上った。「容認」「どちらかといえば容認」の合計33.2%を大きく上回っている。
 また、軟弱地盤改良のため国が申請した設計変更を県が不承認とした判断の評価については「どちらかといえば」を含めた支持派が57%に達し、不支持派33.3%を大きく上回った。
 さらに渡具知氏を推薦した公明党県本は辺野古移設に反対している。公明党支持者から多くの票を得たとみられる渡具知氏はそれを忘れてはならない。
 選挙戦では、新基地建設問題以外にも、喫緊の課題である新型コロナウイルス対策や経済振興策、教育・子育て支援、北部基幹病院の整備、福祉・高齢者対策など暮らしの問題も問われた。新基地建設の是非よりも、こうした問題を重視して投票した人々も少なくないだろう。
 投票結果には有権者のさまざまな思いが込められていることは言うまでもない。市民から信任を得た渡具知氏には、選挙での公約を着実に前に進めて市民の豊かな暮らしをぜひ実現してほしい。
 今年は沖縄にとって選挙の年である。夏の参院選以降、統一地方選、秋には天王山の県知事選が実施される。その重要な初戦となった名護市長選で渡具知氏が勝利したことは、同氏を推薦した自民、公明の勢力にとって大きな弾みとなった。
 一方、辺野古新基地建設に反対し、玉城デニー氏を支援している「オール沖縄」勢力は南城市長選も落とし手痛い敗北だ。今後の選挙に向けて、態勢の立て直しと、戦略の再検討が迫られる。