<社説>学術会議任命拒否 違法状態は続いている


社会
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 日本学術会議の会員候補任命拒否問題について岸田文雄首相は、梶田隆章会長と初会談し「一連の手続きは終了したものと承知している。もう結論は出ている」と語った。

 何を根拠に「終了」したと言うのか。菅義偉前首相が任命を拒否したため、学術会議法に定められた定員を満たさず現在も違法状態にある。一刻も早く違法状態を解消しなければならない。
 岸田首相に問いたい。なぜ人事に介入して任命拒否したのか。なぜ国民が納得できるように説明しないのか。学問の自由を侵害した責任は誰が取るのか。こうした疑問に向き合わず、なぜ組織問題にすり替えるのか。政府の姿勢は、立憲主義と法治主義の原則を逸脱している。
 学術会議会員の任命拒否は、菅政権時代に発覚した。菅氏は「総合的、俯瞰(ふかん)的」観点から判断したと繰り返し、「人事に関わる」と説明を避け続けた。
 戦前、日本の学問が政治に従属し戦争遂行に利用された教訓から、学問の自由を支え政府から独立した国家機関として学術会議が設置された。
 会員の任命について学術会議法は、学術会議が候補者を「選考」「推薦」し「内閣総理大臣が任命する」と規定し、学術会議側の選考権を認めている。1983年に中曽根康弘首相(当時)は「政府が行うのは形式的任命にすぎない。学問の自由独立はあくまで保障される」と国会答弁した。内閣法制局も同様の答弁をしている。
 会員の選考に政治が介入することは、選考権の否定であり法律違反だ。その結果、学術会議の独立性を揺るがし、憲法23条が保障する学問の自由を侵害したことになる。
 学術会議法は、会員の定員を210人と規定している。6人の任命を拒否することは、任命する義務を果たさないことになり違法である。内閣の違法な行為は、憲法73条に抵触する。岸田政権になっても定員は補充されず、違法状態が続いている。岸田首相が語る「一連の手続きは終了した」わけではないのだ。
 菅政権はこれらの本質的な問題を学術会議の組織見直しにすり替えた。岸田政権もすり替え路線を踏襲している。
 政府の総合科学技術・イノベーション会議の有識者議員は21日、学術会議の見直しに関する報告書をまとめた。組織形態について「緊急的課題などへの対応という観点からは、現在の形態が最適という確証は得られていない」と指摘した。小林鷹之科学技術担当相は、今夏までに組織形態を示す考えを明らかにした。
 前述のように「結論は出ている」と岸田首相が語ったのは、あくまで組織見直しによって幕引きする方針の表れなのだろう。
 菅政権が引き起こしたとしても、岸田首相には政府として学術会議側と国民に対する説明責任がある。違法状態を放置することは許されない。