<社説>ウクライナ緊迫 キューバ危機回避に学べ


社会
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 ロシアが軍事圧力を強めるウクライナ情勢が、日増しに緊迫している。

 米国と欧州諸国首脳は、ロシアのウクライナ侵攻を防ぐために「前例のない規模の包括的な制裁」や北大西洋条約機構(NATO)加盟国への防衛支援強化を話し合った。バイデン米大統領は「NATO即応部隊」に米軍約8500人を短期間で派兵できる態勢を整えるように命じた。
 戦争回避に向けて自制と外交努力が求められる局面で、逆に軍事衝突の危険性を高めている。今こそ、全面戦争になりかねなかった「キューバ危機」を思い起こしてもらいたい。60年前に危機を回避した教訓に学ぶべきだ。
 ロシアは隣国ウクライナのNATO加盟に強く反対し、ウクライナ周辺に部隊を増強している。ロシアは、ウクライナに欧米の軍事施設が配備された場合、ミサイルがモスクワに到達する時間が「10~7分、あるいは5分にまで」大幅に短縮され、ロシアにとって最も重大な脅威になると主張している。
 注目したいのはロシアが、1962年の「キューバ危機」を引き合いにNATOの東方拡大を批判している点だ。
 ソ連は当時、カリブ海のキューバに中距離ミサイルを配備した。撤去を求める米国との緊張が核戦争の瀬戸際まで高まった。ロシア高官らは、ウクライナのNATO加盟や同国へのミサイル配備はキューバ危機の裏返しだと訴える。
 そのキューバ危機は、沖縄にとって対岸の出来事ではなかった。米軍内でソ連極東地域などを標的とする沖縄のミサイル部隊に核攻撃命令が誤って出された。現場の発射指揮官の判断で、核搭載の地対地巡航ミサイル「メースB」の発射が回避されていた。
 米軍だけでなくソ連潜水艦も核魚雷を発射する寸前だったことが、ソ連崩壊後に明らかになっている。
 キューバ危機回避について、米国や国際社会の一部では、当時のケネディ大統領の揺るぎない姿勢がソ連の譲歩につながったとの解釈が一般的だという。だが実態は違う。ケネディ大統領は強硬一辺倒ではなく、トルコに配備してソ連を射程に入れていた米ミサイルの撤去も密かに提案している。その結果、ソ連のフルシチョフ首相はソ連の体面を保ちつつ、キューバからのミサイル撤去に応じることができた。
 危機を回避できたのは、米ソ首脳が交渉決裂が招く事態の深刻さを重く受け止めた結果にほかならない。ケネディ政権が軍部だけでなく、さまざまな意見を持った専門家の情報を慎重に検討した結果とも言えよう。ロシアがキューバ危機を引き合いに出すのなら、危機回避の教訓こそ米ロは共有すべきである。
 ウクライナ有事は、米軍基地が集中する沖縄にも影響を及ぼすだろう。国際社会は衝突を回避するため、合理的な選択を促す必要がある。