<社説>「遺骨条例」制定を陳情 実現へ直ちに取り組みを


社会
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 遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松代表や研究者らが、戦没者遺骨の保全を図る条例の制定を求める陳情書を沖縄県議会に提出した。開発行為による遺骨の散逸を防ぐため、事前に知事に届け出て遺骨の有無を確認できるようにするというものだ。県議会は2021年4月、「悲惨な沖縄戦の戦没者の遺骨等が混入した土砂を埋め立てに使用しないこと」を求める意見書を全会一致で可決している。条例は意見書の趣旨と一致する。条例実現に向け直ちに取り組んでほしい。

 遺骨を含む可能性のある土砂の問題は、辺野古新基地建設で大浦湾の軟弱地盤改良工事に伴う設計変更申請で表面化した。当初、西日本の各地から調達する計画だった土砂を県内調達とし、県内の調達先を本島北部から県全域に拡大した。
 これを受け具志堅さんは、沖縄戦の戦没者遺骨を含む可能性のある地域の土砂採掘は戦没者や遺族を冒瀆(ぼうとく)するもので人道に反すると訴え、運動を展開した。政府に計画の撤回を求めるとともに、知事に提出されていた糸満市の土砂採掘事業計画に中止命令を出すよう求め、ハンガーストライキや署名に取り組んだ。
 糸満市での事業に対し玉城デニー知事は、自然公園法に基づき「風景を保護するために必要な措置を取る」とする措置命令にとどめ、「県として最大限取り得る行政行為」と説明した。この時「さらに取り得る最善の策があり得るか、条例等の制定の必要性も踏まえて考える必要がある」と述べている。知事は今回の陳情に応えるべきだ。
 県外からの土砂で外来種が侵入することを防ぐ県条例を適用されないため、というのが、政府が土砂の調達先を切り替えた理由だ。21年3月19日付本紙声欄に「外来生物混入はダメで遺骨混入はいいというのか」という遺族の意見が掲載された。誰もが抱く疑問だろう。
 具志堅さんは遺骨の問題は新基地への賛否ではなく「人道上の問題」と強調し、さらに戦没者の出身は全国に広がっていることから「全国の問題」と訴えてきた。そして、全国の都道府県・市町村1743議会に意見書可決を促す要望書を送った。具志堅さんによると、現在、可決は県内30、県外176の計206議会に達しており、さらに増える見込みだ。「人道上の問題」「全国の問題」という認識が浸透しつつある。
 全会一致だった沖縄県議会の意見書は「日本政府が主体となって戦没者の遺骨収集を実施すること」も求めた。国策としての戦争が国内外に多大な犠牲を強いた。その戦没者の遺骨や遺族にどう向き合うのかということが、政府にも県にも問われている。
 条例は新基地計画に影響するがそれ以前に、県も県議会も、戦没者の声なき声、全国の遺族の声にどう応えるのかを考えるべきである。