<社説>他国爆撃「排除しない」 「専守防衛」を堅持せよ

 ついにここまで来たかと戦慄(せんりつ)せざるを得ない。岸信夫防衛相が衆院予算委員会分科会で「敵基地攻撃能力」を巡り、自衛隊機が他国領空に入り爆撃する選択肢を「排除しない」と明言した。もはや国際法違反の「先制攻撃」と区別がつかないのではないか。「専守防衛」をこれ以上空洞化させてはならない。

 政府は2018年、「防衛計画の大綱」に巡航ミサイルの導入と護衛艦空母化を盛り込み、事実上の敵基地攻撃能力保有に踏み出した。20年に技術的問題を理由にイージス・アショアを断念すると、ミサイル防衛の代替策として長射程ミサイルを搭載するイージス艦の増強を決めた。
 岸田文雄首相は施政方針演説で、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を策定の中で「いわゆる『敵基地攻撃能力』を含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討します」と述べた。大綱に明記されることになりそうだ。
 政府は「敵基地攻撃能力」は憲法上認められるという立場だ。1956年、当時の鳩山一郎首相が「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とはどうしても考えられない」「他に手段がない場合に、必要最小限度の攻撃は自衛の範囲で憲法上可能」と答弁し、踏襲されてきた。
 しかし、国民が許さず、タブーとなってきた。72年、田中角栄首相は「防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、もっぱらわが国土およびその周辺において防衛を行う」と答弁した。
 2003年ごろから自民党タカ派を中心に敵基地攻撃論が強まった。背景に、核実験やミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮への対抗、軍事的な台頭が著しい中国への脅威論があった。米国からの軍事一体化の要求も強まり、第2次安倍政権で集団的自衛権を行使できると憲法解釈を変更し、15年に安保関連法を強引に成立させ、現在に至る。
 自衛の「盾」のみだったはずの日本が「矛」を持ち始め、台湾有事を想定して自衛隊の南西シフトが進められている。沖縄や奄美では、戦場になる危機感がかつてないほど高まっている。
 脅威論は世論にも影響を与えている。20年8月の共同通信の世論調査で、敵基地攻撃能力を「保有すべきだ」が46.6%、「保有する必要はない」が42.3%と拮抗(きっこう)した。敵基地攻撃が現実になればどうなるか。報復は全国の基地に向かい、民間地や民間人が巻き込まれることは避けられないはずだ。
 政府は「敵基地攻撃能力」を、日本を狙う弾道ミサイルを相手領域内で阻止する能力と位置付け、先制攻撃と区別するとしているが、国内向けの詭弁(きべん)にすぎない。軍事上、相手や第三者からはそう見えないだろう。外交による信頼構築こそが安全保障だ。今こそ「専守防衛」堅持の声を上げなければならない。



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