<社説>大阪ヘイト条例合憲 実効性ある県条例制定を


社会
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 ヘイトスピーチの抑止策を定めた大阪市の条例が、表現の自由を保障する憲法の規定に反するかどうかが争われた住民訴訟で、最高裁は初めて合憲と判断した。

 ヘイトスピーチについて、「差別意識を助長したり、犯罪行為を扇動したりするもの」と認定し、差別を抑止する必要性を指摘した点に意義がある。沖縄県をはじめこれから制定を検討している自治体には、判決の趣旨を踏まえて、ヘイト根絶へ向けた実効性のある条例が求められる。
 大阪府は特定の人種や民族への差別をあおるヘイトスピーチを抑止するため、2016年に条例を施行した。専門家らでつくる審査会がヘイトに当たるかどうかを検討し、答申を受けた市長がヘイトと認めた場合、実施団体や個人名を公表できる。
 判決は「表現の自由の制限は合理的でやむを得ない限度にとどまる」と指摘。条例には「表現の自由に配慮しつつ、抑止を図る趣旨が認められる」と述べた。氏名や団体名を特定するための強制的な手段も定められておらず、制限は合理的だとした。
 県内でも那覇市役所前などでの外国人を対象にしたヘイトスピーチが問題になった。このため現在、県はヘイトスピーチを規制する条例制定作業を進めている。検討過程で「差別的言動」を外国人に向けられる発言に限定し、県民向けなどは対象外となった。当初案にあった差別的言動をした人の氏名を公表する措置も削除した。
 これでは実態にそぐわず、実効性に疑問がある。なぜなら外国人にとどまらず、沖縄が標的にされているからだ。13年に東京都で県内首長たちがデモをしてオスプレイ配備撤回を求める中、「おまえら中国人の手先か」「死ね」などの言葉を浴びせかけられた。
 16年10月、北部訓練場のヘリパッド建設に抗議する市民に大阪府警の機動隊員が「土人」と、差別的発言をして問題になった。ネット上では差別的な沖縄ヘイト投稿がたびたび問題になる。
 今回の最高裁判決は「特定の個人」だけでなく、「人種または民族全体等の不特定かつ多数」という表現で、集団に対するヘイトスピーチの規制は合憲だと判断した。
 この最高裁判例に従えば、「不特定かつ多数」には沖縄県民に対する差別も含まれると解釈できるのではないか。県は対象の幅を広げるべきだ。
 現在、大阪市を含め2都府6市区町で条例が制定されている。このうち川崎市は全国で初めて刑事罰を定めたが、ネットの投稿は対象外になっている。短文投稿で交流するSNS「ツイッター」では、沖縄県民に対しても「土人」「猿」など蔑称を用いた投稿が見られ、一部は削除されずに放置されているという。
 ネットへの対応を含め、県は、差別を許さないという毅(き)然(ぜん)とした姿勢で条例制定に取り組んでもらいたい。