<社説>ロシア核使用威嚇 国際社会は暴走阻止を


社会
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 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が「核の脅し」を続けている。ひとたび核兵器を使用すれば核による報復の応酬となり、破局に向かう。国際社会が結束してプーチン氏の暴走を止めなければならない。

 交渉戦術であろうと核使用をちらつかせることは断じて認められない。北朝鮮の非核化が遠のくなど、核不拡散体制を機能不全に陥らせかねない。核廃絶の意志を世界が一致して示すことが必要だ。
 プーチン大統領はウクライナに侵攻を始めた2月24日の演説で「ロシアは世界で最も強力な核保有国の一つだ。わが国を攻撃すれば壊滅し、悲惨な結果になることに間違いない」と強調し、核戦力行使の可能性を示唆した。同27日には核兵器を運用する部隊を高い警戒態勢に置くよう軍部に命令した。
 ウクライナの隣国ベラルーシでも同27日に国民投票が行われ、核兵器を持たず中立を保つという条項を削除する憲法改正が賛成多数で承認された。これによってベラルーシにロシアの核兵器が配備される恐れが出ている。
 ロシアは1994年、ソ連崩壊後のウクライナに残った約1800の核兵器を同国が放棄するのと引き換えに、ウクライナの安全を保障するとした「ブダペスト覚書」に米国や英国と共に署名した。覚書は冷戦後の一連の核軍縮に大きく貢献する歴史的な意義があった。
 プーチン大統領によるウクライナへの侵攻と核による威嚇は国際合意の違反だ。非核化を受け入れたウクライナの決断を反故(ほご)にするものであり、断じて許されない。
 ストックホルム国際平和研究所によると、ロシアの核弾頭保有数は6255発で、米国の5550発を上回って世界最大だ。その核大国のトップが核戦力の行使を持ち出すことは、核保有国が核軍縮に取り組む義務を規定した核拡散防止条約(NPT)に逆行する暴挙である。
 核兵器は使われれば互いの破滅を招くため、実際には「使えない兵器」と言われる。米中ロ英仏の核保有五大国は1月に、「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」とうたう画期的な共同声明を発表したばかりだ。昨年1月には核兵器禁止条約が発効している。世界の核軍縮に道筋を付けることこそが大国の果たすべき役割だ。
 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは、ロシア軍が非人道的な兵器として知られるクラスター(集束)弾を使用したと発表している。殺傷能力の高い燃料気化爆弾を使用した可能性も指摘されている。一刻の猶予もない。ロシアは直ちに軍を撤退させるべきだ。
 日本でも右派の政治家が米国との「核共有」の議論を持ち出すなど、危機に便乗したような言動が出ている。被爆国の日本は核廃絶の流れを絶対に後退させてはならない。