<社説>ロシアの言論統制 真実ゆがめる弾圧やめよ


社会
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 ウクライナに軍事侵攻したロシアのプーチン政権が、侵攻に批判的な言論を圧殺するため国内外のメディア統制を強化している。

 戦争の最初の犠牲者は「真実」だといわれる。真実をゆがめることは断じて許されない。言論の自由は民主主義の根幹をなし、国連で決議された「市民的および政治的権利に関する国際規約」に規定されている。言論統制に強く抗議し、弾圧を直ちにやめるよう求める。
 ロシアで軍事行動に関する「偽情報」の拡散に対して懲役刑を科す法律が成立した。外国人も対象となり、情報が「深刻な結果」をもたらした場合は最大15年を科す。しかし規定が曖昧で当局の恣意的な運用が可能だ。既にリベラル系の民間ラジオとテレビ局を閉鎖した。国際ジャーナリスト保護団体は「ロシアを情報の暗黒時代に追いやった」と非難した。
 米英主要メディアは記者拘束のリスクを懸念し、ロシアでの報道活動を一時停止すると発表した。ロシアでの取材活動や放送の停止を余儀なくされた。その結果、ロシアの現状が国外に伝わりにくくなる上、ロシア国民が接する情報は、官製メディアによってプーチン政権のプロパガンダ一色に染まる恐れがある。
 かつてソ連時代のメディアは国家の統制下に置かれていた。1980年代後半にゴルバチョフ書記長が始めた改革によって、検閲が廃止され、情報公開と自由な言論活動が認められた。
 しかし、プーチン氏は時計の針を「あらゆることが最終的には力の行使によって決定されてきた」(ゴルバチョフ氏)ソ連時代に逆戻りさせた。
 プーチン氏は軍事侵攻前から、ウクライナ政府が東部の親ロ派支配地域で「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を行っていると主張。ゼレンスキー政権を「ネオナチ」と呼んできた。「根拠なきうそ」(米政府)を一方的に拡散させてきたのは、プーチン氏にほかならない。
 しかし、都合の悪い情報を隠しても、SNS上で拡散される情報まで遮断できないだろう。30年間、自由な言論活動が認められたロシア国内で、プーチン氏が始めた戦争に反対するデモが続いている。
 アジア太平洋戦争中、言論統制によって、日本の新聞、ラジオは大本営が発表する「偽情報」を垂れ流した。メディアが権力を監視する役割を放棄した結果、沖縄戦では県民の4人に1人が犠牲になった。言論の自由が奪われた先には、破滅が待っていることを歴史が教えている。
 日本ペンクラブは9日、世界の作家でつくる団体「国際ペン」が発表した公開書簡に会員310人が賛同し署名したと発表した。書簡は「プーチンの戦争は、ウクライナだけでなく、世界の民主主義と自由に対する攻撃」と批判している。プーチン氏の暴走を食い止めなければならない。