<社説>韓国大統領に尹氏 東アジアの平和へ協力を


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 韓国大統領選で保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユンソンニョル)前検事総長が勝利した。革新系与党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)前京畿道知事との異例の大接戦を制した。

 日韓は2017年5月の文政権発足以降、元慰安婦や元徴用工を巡る問題で対立してきた。さらに昨年11月の韓国警察庁長官の島根県・竹島上陸や、今年2月の日本政府による「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産推薦などで一層悪化し課題が山積している。
 事の発端は日本による植民地支配にある。歴史問題の解決には被害者である当事者が納得する救済が必要だ。日本政府は被害者の立場に立った対応で政府間の溝を埋めるべきだ。東アジアの平和を第一に考え、日韓関係改善に向けて協力し合ってほしい。
 韓国最高裁が18年、元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じる確定判決を出して以降、日韓関係は急速に冷え込んだ。文在寅(ムンジェイン)大統領は「被害者中心主義」「司法判断の尊重」を前面に出し、1965年の日韓請求権協定で韓国人の個人請求権問題は解決済みとする当時の安倍政権と対立した。
 しかし日本の裁判でも強制労働の事実は認めている。請求権協定の内容を含め、被害者に対する日本側のアプローチに問題はないかを検証する必要がある。これまでの日本政府の姿勢は改めるべきだ。
 文氏は今月1日、19年に朝鮮半島で日本の植民地支配に抵抗して起きた「三・一独立運動」を記念するソウルの政府式典で演説し「日本は歴史を直視し、歴史の前に謙虚でなければならない」と強調した。岸田文雄首相はこの言葉を重く受け止めるべきである。
 尹氏は、日本と「未来に向けて協力する」と表明した。歴史問題などの解決のため「膝を突き合わせる必要がある」とも述べた。岸田首相は尹氏と電話会談し、両国関係の改善に向けて協力することで一致、対面での会談を早期に行う方針も確認した。お互い謙虚な態度で対話を重ね、日韓関係を修復してほしい。
 ただ、気になるのは北朝鮮への対応の変化だ。尹氏は選挙戦中、北朝鮮のミサイル能力が高度化する中、「北朝鮮への先制打撃能力を確保することで戦争を防ぐことができる」と述べて抑止力強化を掲げた。尹氏は、米韓同盟を重視する方針を示している。北朝鮮への配慮から米国との足並みの乱れを指摘されてきた文政権とは対照的である。「融和」から「圧力」へ転じることになる。
 日本でも自民党の国会議員から敵基地攻撃能力保有や核共有を求める声がある。北朝鮮を刺激する危険な動きだ。軍拡によって危機を高めるのではなく、火種を取り除く外交努力こそが重要だ。
 南北問題を対話で解決する姿勢は堅持すべきだ。東アジアにおける分断を深めてはならない。日韓両政府は互いに尊重し合い、対話による関係改善に全力を尽くすべきだ。