<社説>国会召集高裁判決 最高裁は違憲に踏み込め


社会
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 憲法53条に基づく臨時国会の召集要求に安倍晋三内閣が98日間応じなかったのは憲法違反だとして、2018年に県選出国会議員らが起こした訴訟で、福岡高裁那覇支部は、一審同様、国会召集は「憲法上の義務」と認めたが違憲判断には踏み込まなかった。原告は即日上告した。東京、岡山で起こされた同種訴訟と共に最高裁の初の判断が示されることになりそうだ。

 国会、内閣、裁判所による三権分立は、互いが監視し合うことで国家権力の暴走を防ぎ、国民の権利を保障する仕組みだ。憲法53条はその国会と内閣の均衡・抑制関係の中に位置付けられる。最高裁は「憲法の番人」として踏み込んだ判断をすべきだ。
 17年、森友・加計学園問題の真相解明を目的に野党が憲法53条に基づいて要求した国会召集要求を、安倍内閣は無視し続け、ようやく開会した日に解散し、審議の機会を葬った。引き継いだ菅義偉内閣も21年、新型コロナ対策のための野党の国会召集要求を80日間放置した。
 53条は憲法第4章「国会」にあり、その後段で「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」と定めている。国民の代表である国会議員が、内閣に説明を求め議論が必要な時に賛同者を集めて国会開会を要求するのは当然だ。
 しかも、速やかに開かれなければ意味がない。安倍、菅両内閣は、53条に期限の定めがないことを悪用した。政治的理由で同条の空洞化を意図的に進めてきたと言うほかない。
 福岡高裁那覇支部判決は、「国民の選挙権の行使を通じて表れた国民の意見を多数派・少数派を含めて国会に反映させるという観点からも、(憲法53条に基づく内閣の)義務の履行は極めて重要な憲法上の要請であることは論をまたない」と述べた。判決ではあまり見かけない強い表現に裁判所の思いがにじんでいると原告側は評価している。
 また、召集を要求した個々の国会議員と内閣の関係では、国家賠償法に基づく法的責任を肯定できないとして「現行法上、やむを得ないというべきである」と損害賠償を認めなかった。現時点での損害賠償は無理だとしても、違憲認定は可能だったのではないか。
 3裁判の控訴審で、元最高裁判事の浜田邦夫氏が原告側を支持して異例の意見書を提出した。「内閣に政治的裁量は認められない」とした上で、要求から開会までの合理的期間を「長くても30日以内が原則。天変地異が起きた場合でも最長で45日以内」と主張した。
 旧優生保護法下の強制不妊手術の訴訟では、大阪、東京の両高裁が「時の壁(除斥期間)」を突破する画期的判決を出し、「司法の独立」への希望を感じさせた。三権分立を巡る本訴訟でも、最高裁に毅然(きぜん)とした判断を求めたい。