<社説>ウクライナ侵略 国際社会の英知試される


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ロシアがウクライナを軍事侵攻してから1カ月近く経った。国際社会の働き掛けは、功を奏さず停戦を実現できないでいる。ウクライナ南東部マリウポリで30万人以上の市民が孤立化し、電気や水道を断たれるなど人道危機が深刻化している。

 「世界の状況は冷戦以前の二十世紀、あるいはそれより前の十九世紀へ戻ってしまったように思える」(宇野重規東京大学教授「東京新聞」)という指摘もある。歴史の針を19世紀に戻すことがあってはならない。国際社会の英知が試されている。
 沖縄に日本軍(第32軍)が編成されたのは、78年前の1944年3月22日である。1年後の3月21日に米軍は南大東を空襲、23日に南西諸島全域を空襲した。米軍は26日に慶良間諸島、4月1日に沖縄島に上陸した。「ありったけの地獄を一つにまとめた」(米国陸軍省)と表現される激烈な沖縄戦が始まった。
 国家間の直接的な地上戦によって4人に1人の県民が犠牲になった。米軍が撮影した77年前の戦闘記録とウクライナからの映像が重なって見える県民も多いのではないか。戦禍に巻き込まれる市民をこれ以上増やしてはならない。
 ロシアのウクライナ侵攻後、国内外へ戦火を逃れたウクライナ人は1千万人近くに達した。総人口の2割以上に当たる。国際移住機関(IOM)は、さらに1200万人以上が戦闘などで危険地域から逃れられず、立ち往生していると推定した。
 戦術核使用もちらつかせるロシアは核搭載可能とされる極超音速ミサイルを実戦に初投入した。ロシアが、膠着(こうちゃく)状態を打破するため生物・化学兵器など非人道兵器を使用するシナリオに、バイデン米政権が警戒を強めている。生物・化学兵器の使用は決して許されない。
 ロシアは戦場での使用を想定した戦術核を多数保有する。グテレス国連事務総長は「かつて考えられなかった核戦争が起こり得る」と危惧する。自国の利益のために核兵器使用も辞さないという論理がまかり通れば、戦後国際秩序は崩壊し、世界は「ジャングルの掟(おきて)」に支配されてしまう。被爆国日本は「核の先制不使用」を先導する役割を果たすべきだ。
 共同通信社が19、20両日に実施した全国電話世論調査によると、日本政府のウクライナ対応を巡り、プーチン大統領の資産凍結といったロシアへの経済制裁を支持するとの回答が85・8%、ウクライナからの避難民受け入れは91・2%が評価した。国民は現実問題として捉えている。
 敗戦後、日本は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」(「日本国憲法」前文)した。ロシアによる侵略行為を断じて許さないため、日本は「力による解決」ではなく、積極的に国際世論に働き掛けなければならない。