<社説>ウクライナ大統領演説 「積極的平和」外交展開を


社会
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 ウクライナのゼレンスキー大統領が国会でオンライン演説を行った。他の国での演説とは違い、軍事支援の要請はなかった。ロシアへの経済制裁の継続を求めた一方で「全世界の安全を保障するためのツールが必要だ」と訴え、日本のリーダーシップを求めた。これは日本に、軍事的手段によらない「積極的平和」外交を求めたものと受け止めたい。日本は停戦実現に全力を挙げ、人道支援を強化し、新たな国際秩序の構築にも尽力することが求められる。

 ゼレンスキー氏は各国での演説で、歴史的な演説を引用して共感を得る努力をしてきた。今回、歴史の引用はせず、チェルノブイリ原発や化学兵器サリンに言及し、「侵略の津波」という表現を用いて、東日本大震災と原発事故、地下鉄サリン事件など日本国民の記憶に訴え掛けた。日本を「アジアのリーダー」と述べたのは、中国やインドなど態度が曖昧な国が多いアジアで、自国への支持を広げる役割に期待を込めたのであろう。
 国連については「国連も安全保障理事会も機能しなかった。改革が必要だ」「新しい予防的なツールをつくらなければならない。本当に侵略を止められるようなツールだ」と訴えた。
 国連の安全保障理事会(安保理)はこれまでも常任理事国の拒否権発動で機能不全が続いている。今回も、常任理事国のロシアが当事国である以上、機能しようがない。安保理改革も「新たなツールの開発」も簡単ではない。ただ、基礎になるのは、国際紛争解決に武力の行使や威嚇を禁じる国連憲章である。それを確認した上で、日本は改革へのリーダーシップを発揮しなければならない。
 シンクタンク「新外交イニシアティブ」(ND)は昨年発表した台湾問題に関する政策提言で、「抑止」はいつか破綻すると指摘した。そして、相手の死活的利益を脅かさないと確認する「安心供与」による安全保障を提起した。
 軍事侵攻後、日本は経済制裁を行う一方で、欧州の指導者のようにロシアと対話しようという動きは見せていない。逆に平和条約交渉を一方的に中断され、抗議する事態となった。日本は今からでも、仲介に向けた対話の糸口を見いだす努力をすべきだ。
 北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返しており、24日には日本海の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下するという危険な事態が起きた。厳重に抗議することは当然だ。だが、これを軍事力強化の理由にすれば際限のない軍拡競争になり、いつか「抑止」が破れる時が来る。中国に対しても同様だ。まさに、ウクライナ危機が教訓となる。
 平和学者ヨハン・ガルトゥング氏が提唱した、軍事力に頼らない「積極的平和」は平和憲法の理念そのものだ。沖縄の安全保障のためにも、日本は対話を軸とした「積極的平和」外交に転換すべきだ。