<社説>米軍が区域外訓練 人命軽視 容認できない


社会
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 米海軍は22日午後5時ごろ、名護市の名護湾でヘリコプター2機によるつり下げ訓練を実施した。そこは米軍提供区域外である上、日本側へ事前に通告することもしなかった。

 日米地位協定は米軍機が基地間を自由に移動することは認めているが、訓練の実施は提供区域に限定している。日米の合意では、提供区域内で訓練する場合、使用期間などについて日本側に事前に通告することになっている。
 こうした取り決めは、住民の安全を守るためにほかならない。日米合意に違反する今回の行為は、県民の命や安全を脅かす。断じて容認できない。県民の命や安全を軽視する米軍に対し、強く抗議する。
 訓練に参加したのは第12海上戦闘飛行隊に所属する米海軍のMH60Sヘリコプターで、約1時間にわたって低空飛行で名護湾の海上を旋回したり、海面から10メートルほど上空でホバリングしたりしていた。1機は海面すれすれまで近づいて水しぶきを上げた後、若干高度を上げて人のようなものを海面からロープで引き上げていた。
 日米合同委員会は、米軍機の飛行について、国際民間航空機関(ICAO)や日本の航空法上の最低安全高度規定と同様の飛行行動規則を米軍に適用することで合意している。航空法は最低高度を何もない場所で海面などから150メートルと定めている。今回の訓練はこうした合意にも反するやり方だ。
 しかも現場は刺し網が設置されている漁場だ。漁師が付近にいたら危険だった。事故や危険を回避するには事前連絡が欠かせないが名護漁業協同組合に連絡はなかった。
 第11管区海上保安部によると、提供区域内で米軍が訓練する場合は事前に訓練期間の通告があるので海上安全情報として航行の安全を呼び掛けている。だが今回は米側から通知がなかったため地元漁協などに訓練に関する情報を出せなかった。民間人の安全を確保するための、こうした仕組みを無視したことは大問題である。日本がまともな主権国家なら外交問題に発展してもおかしくない。
 ところが日本政府の対応は弱腰に映る。沖縄防衛局は23日、本紙の取材に対し事実関係について「米軍に照会中だ」とした上で「仮に米軍機によるものであれば、引き続きわが国の公共の安全性に妥当な配慮を払い、日米合同委員会合意を順守するとともに、地域に与える影響を最小限にとどめるよう申し入れた」と回答した。
 日本政府は日米合意に反する訓練が行われたのかどうかをきちんと確認し、そうであれば抗議すべきである。再発防止を徹底しなければならない。でなければ日本政府も県民を軽視していると言わざるを得ない。事故が起きてからでは遅い。県民の命と安全を守るという主権国家として当然の責務を果たすべきだ。