<社説>「10・10空襲」記載なし 沖縄戦の実相を消すな


社会
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 文部科学省は2023年度から高校生が使用する教科書の検定結果を公表した。

 「日本史探究」の清水書院の教科書で、太平洋戦争中に米軍による最初の無差別攻撃を、那覇市の9割が焼失した1944年の「10・10空襲」ではなく、45年3月10日の「東京大空襲」と記述した。
 10・10空襲は当時の日米両政府が認めた無差別攻撃である。沖縄戦の「強制集団死」についても「軍命」を明記した教科書はなかった。
 沖縄戦は日米の激しい地上戦に住民が巻き込まれ4人に1人が犠牲になった。その実相が教科書から消えてしまえば、「軍隊は住民を守らない」など、沖縄戦の教訓を学ぶ機会を奪ってしまう。歴史に目をつぶるような検定結果は断じて容認できない。速やかに是正すべきだ。
 米統合参謀本部は44年10月3日、チェスター・ニミッツ太平洋方面最高指揮官に「45年3月1日までに琉球列島内で島を一つ、あるいはそれ以上占領」するよう命令した。沖縄を日本「本土」決戦に向けた戦略拠点として位置付けたのだった。
 命令から1週間後の10月10日、米軍は爆撃を実施した。狙いは(1)沖縄上陸作戦に向けた航空写真の撮影(2)レイテ島侵攻を側面支援するための沖縄の飛行場と港湾の破壊―などである。米艦載機延べ1400機が早朝から9時間、5次にわたって奄美大島以南の南西諸島の主要な島々を爆撃した。少なくとも軍人・軍属、住民ら668人が死亡、768人が負傷した。那覇は9割の家屋が焼失した。
 10・10空襲当時、日本政府から抗議を受けた米国政府内で無差別攻撃だったと認めている。国際法違反を否定することもできないため、日本側の抗議を黙殺した。
 10・10空襲はその後、全国で76万人が犠牲となった大都市無差別攻撃の始まりと言えよう。今回検定に合格した5社7冊全てに10・10空襲の説明記述はない。
 新しい学習指導要領から高等学校の歴史選択科目として「日本史探究」「世界史探究」が登場した。「探究」と銘打つからには、暗記中心ではなく生徒一人一人に自ら考え深い学びを目指すのだろう。
 10・10空襲という「点」と東京大空襲という「点」を切り離せば、戦争によっていかに多くの民間人が犠牲になったのかということが、一本の「線」として理解できない。
 学びを深めれば、空襲による被害が拡大した要因の一つに「空襲から逃げるな、火を消せ」と国が犠牲を強いた防空法があることが分かるだろう。旧軍人・軍属には恩給や年金が支給されてきたが、民間人被害者は放置されている事実にもたどり着くだろう。
 今回の教科書検定は「政府見解に基づいた記述」を求める検定意見が多く付いた。時の政権の見解の押し付けは、本来の教育目標である「探究」を阻害し本末転倒している。