<社説>教科書検定基準 政治で教育をゆがめるな


社会
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 2023年度から使用される高校教科書の検定結果が公表され、地理歴史、公民で、政府見解に基づく記述を要求する検定意見が過去最多の14件も出された。教科書を政府見解に従わせる事実上の検閲が続いている。沖縄に関しては検定意見は付かなかったが、「10・10空襲」に触れないものや年を誤ったもの、「強制集団死」(集団自決)の記述で日本軍の関与に触れないものが合格するなど、不十分な点が多い。

 14件の検定意見は、安倍晋三政権下の14年、下村博文文科相が検定基準に「政府見解に基づく記述」という規定を加えたことが根拠だ。教科書は歴史研究の成果に基づかなければならない。教科書を政治でゆがめる検定基準を見直すべきだ。
 今回検定の対象になったのは、新学習指導要領に基づき選択科目として新設された「日本史探究」などで、同科目では5社7冊が合格した。そこで、朝鮮人「強制連行」と「従軍慰安婦」という用語がターゲットになった。
 昨年4月に国会議員の質問主意書への答弁書として閣議決定したのが「『強制連行』とひとくくりにすることは適切ではない」「単に『慰安婦』という用語を用いることが適切」というものだった。検定の結果、「強制連行」は「動員して働かせた」などに変わり、「従軍慰安婦」は「慰安婦」になった。政府見解を書き加えて合格にこぎ着けた教科書もあった。
 「日本史探究」では7冊全てが、「集団自決」という用語で「強制集団死」に触れた。実教出版が「日本軍により強いられ」「日本軍が強いた」と強制性を表した一方で、山川出版社は「追い込まれた」と日本軍の関与をあいまいにした。
 沖縄戦の「強制集団死」とは、「軍民共生共死」の方針の下、日本軍による指導・命令・強制・誘導によって追い込まれたものである。これを住民の自発的な死だったとするために05年に起こされた訴訟を背景に、06年度の検定で教科書から「日本軍」という主語が削除された。
 その後、教科書会社が工夫して軍の強制性はある程度記述されるようになったものの、会社ごとにばらつきがあるのが現状だ。新城俊昭沖縄大客員教授は「強制性を弱めた説明などを見ると、間違った歴史を教える可能性が非常に高い」と指摘している。
 「強制集団死」の時は密室の中だったが、現在は閣議決定という形で公然と、教科書の「歴史修正」ができてしまう。戦前の国定教科書の復活と言わざるを得ない。これ以上、政治によって教育と学問がゆがめられてはならない。
 沖縄戦について正しく記述するなど、研究の蓄積を踏まえるよう教科書関係者の努力を求めるとともに、学問の自由、教育を受ける権利の観点からも、検定基準見直しの声を広く上げていくべきだ。