<社説>「敵基地攻撃」賛意大勢 平和憲法逸脱許されない


社会
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 外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」などの改定を巡り、政府が実施した有識者ヒアリングでは相手国内でミサイル発射を阻止する「敵基地攻撃能力」保有を求める意見が大勢を占めた。

 有識者は外交・防衛分野の高官OBが中心だ。「結論ありき」との批判は免れない。議事録も公開されておらず、検証ができない。戦後の安全保障政策を根底から転換しかねないにもかかわらず検討の在り方は極めてずさんである。
 最たる問題は、能力保有を認めれば日本の安全保障の国是である「専守防衛」を転換し、平和憲法の理念を大きく逸脱することである。断じて容認できない。保有すれば核攻撃の標的になるリスクを一層高める。保有の問題点やリスクを詳細に検討し、主権者である国民に示すべきだ。
 保有への動きは日米合作といえる。岸田文雄首相は1月、バイデン米大統領とのテレビ会談で、日本の防衛力強化に向け敵基地攻撃能力の保有を含め、あらゆる選択肢を検討すると述べ、支持を得た。
 日本が「盾」で米国が「矛」という従来の日米同盟の役割分担は、能力保有により、日本が米国の「矛」に合流する。米国の戦争に巻き込まれる危険性が高まる。国民の命を米国に預けるような行為だ。
 共同通信が2月に実施した世論調査では、能力保有に賛成は49.1%、反対は45.1%と賛否が二分した。保有がどのような危険を招くかについて国民的な議論がない一方、ロシアのウクライナ侵攻に乗じて保有をあおる空気になっていないか懸念される。
 実際、安倍晋三元首相は講演で敵基地攻撃能力の対象を基地に限定せず「中枢を攻撃することも含むべきだ」と主張、来年度防衛費当初予算で約6兆円の確保を求めた。実弟の岸信夫防衛相は共同通信の取材に本年度予算からの大幅増に意欲を表明。中枢も含めて対象とする議論は「大切だ」と述べた。危険なのは、能力保有の延長線に米国の核兵器を日本に配備して共同運用する核共有論があるからだ。
 核配備を考える前に、そもそも日本には50基以上の原発があり、そこを狙われるとすぐさま壊滅的被害を受けることを想像する必要がある。攻撃能力や核を保有すれば、相手からの激しい核攻撃にさらされる恐れがあり、むしろ安全性は格段に落ちる。
 中でも沖縄は危険だ。米軍は沖縄を含む「第1列島線」に核弾頭が搭載可能な中距離ミサイル網の構築を狙う。長距離極超音速ミサイルなども2023年末までに配備可能という。宮古島の陸自のミサイルは改良が進む。いずれ敵基地を攻撃できるミサイルに改良されるとみられている。
 沖縄はますます「標的の島」となる。決して再び戦場にしてはいけない。日本政府は軍備強化で相手国を刺激するのではなく、有事に発展しかねない火種を平時から取り除く外交努力に徹するべきだ。