14日の衆院憲法審査会で自民党は、立憲民主党が求める国民投票時のCM規制の議論に前向きな考えを表明した。改憲は不要だとの立場から拙速な議論を避けたい立民の求めに応じることにより、改憲議論を加速させたい狙いがあるとみられる。
自民は新型コロナウイルス感染拡大を踏まえて緊急事態条項の新設にも前のめりだ。この条項は私権制限を伴い、立憲主義の理念を損なう問題をはらむ。一方、ロシアによるウクライナ侵攻を挙げて9条改憲を唱える姿勢も顕著だ。
憲法は国の根幹を担う最高法規である。岸田文雄首相は改憲について「国会の議論と国民の理解は車の両輪」と述べ、国民的論議が必要との認識を示している。国民を置き去りにした拙速な議論は避けるべきだ。
衆院憲法審査会は今月に入り、7日、14日と立て続けに審議した。自民は国民投票法に関する討議を21日にも開催する日程を提案したが立民は保留した。14日にCM規制の議論が主要なテーマに設定されたことで、国会関係者は「立民は憲法審に出席しない理由がなくなった。それが自民の作戦だ。夏の参院選後、議論を加速させる考えだろう」と解説した。
昨年改正された国民投票法は付則に立会人やCM規制などの規定について検討すると明記した。自民は、投開票の立会人などに関する規定を公選法にそろえる改正を先行させる構えだ。日本維新の会と公明、国民民主の3党も投票環境の向上に資するとして同調している。
一方、立民には、自民などがCM規制などの国民投票運動の公平、公正性を確保する法改正を先送りしたまま、改憲の本体論議に入ることを警戒する声がある。共産は「国民は改憲を求めていない」として国民投票法の整備自体、不要だとの立場だ。
7日の憲法審では、自民が党改正案4項目の一つに掲げる緊急事態条項新設の是非を議論した。自民は改憲による国会議員の任期延長や大規模災害といった事態の対象明記が各党の「意見の大勢だ」と主張。「おおむね共通の理解が得られた」とも強調した。
これに立民は「総括にはほど遠い状況だ。憲法を改正しなければならない明確な事実があるとは思えない」と反論。拙速な議論だと批判した。
自民は党の改正案で9条への自衛隊明記も掲げる。憲法審で自民の西村康稔氏は「緊急事態と国民投票法の議論を並行的に進めたい。ロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにして、憲法9条も議論するのが極めて重要だ」と述べた。
危険な動きに映る。戦争放棄を明記した9条や憲法の平和主義の原点に立ち返るべきである。憲法の「平和」とは、軍事力に頼らない国際平和主義だ。ウクライナ侵攻に乗じて平和主義の理念をねじ曲げるようなことがあってはならない。