<社説>辺野古市民訴訟却下 原告適格狭め不信強めた


社会
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 名護市辺野古の新基地建設を巡り、埋め立て承認撤回を取り消した国土交通大臣の裁決は違法だとして、住民が行政事件訴訟法(行訴法)に基づいて裁決取り消しを求めた訴訟で、那覇地裁は原告適格を認めず却下判決を下した。またも入り口論で門前払いしたことで、司法不信を改めて強めたと言わざるを得ない。

 この訴訟は、執行停止申し立ての裁判が先行し、2年前に別の裁判官によって原告15人中4人の原告適格が認められた。その4人について継続した裁判の判決である。
 4人のうち3人は、普天間飛行場の騒音分布図(コンター)を当てはめた場合にW値(うるささ指数)70付近に住んでおり、2年前は原告適格が認められた。しかし今回の判決は、受忍限度を超える被害を受けるのはW値75以上とした。また、1人は飛行場周辺の高さ制限に近かったため2年前に原告適格を認められたが、今回は制限に抵触しないとされた。
 行訴法は2004年の改正で原告適格の拡大が図られた。それまで、原告適格を厳格に解釈することによる却下判決が多いことが問題になっていた。改正に際して衆参両院とも「これまでの運用にとらわれることなく、国民の権利利益(諸権利)の救済を拡大する趣旨であることを留意しつつ周知徹底に努めること」との付帯決議をしている。
 改正の翌年、小田急線立体交差事業認可処分を巡る訴訟で最高裁大法廷が原告適格拡大を認めた。日弁連はこれを高く評価し「今後も裁判所が、国民の権利利益の確保と行政の適正化のため、司法に求められる行政のチェック機能を果たすことを期待する」と会長声明を出した。
 沖縄の戦後は、米軍基地による人権侵害との闘いの歴史でもある。嘉手納爆音訴訟などでは、司法は被害賠償は命じても「第三者行為論」などの理屈で飛行差し止めに踏み込まない。米軍基地を巡る権利救済には大きな壁がある。それだけに、基地建設の影響を事前に審査する住民の訴訟の意義は大きい。
 ところが今回の判決は、小田急線判決などについて「本件とは事案を異にする事件に関するものであるから、上記の認定および判断を左右しない」とした。その上で「埋め立て事業によって生ずる可能性のある災害または公害に起因する健康または生活環境に著しい被害を直接的に受ける恐れがある者に該当するとは認められない」と結論づけたのである。司法も「住民より米軍が大切」という姿勢に陥っているのではないか。
 行訴法改正に関わった福井秀夫政策研究大学院大学教授は「権利利益の侵害という、争う資格がある市民による訴訟は、県民や市民の意思を踏まえた一種の代表訴訟でもある」と述べている。法律で制度化されている住民による訴訟の意義を、司法は重く受け止めるべきだ。