<社説>防衛大綱一部秘密化 国民理解なく成り立たず


社会
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 政府が年末に改定する防衛計画の大綱(防衛大綱)に代わり、新たな文書を策定して一部を秘密化する案が政府内に浮上している。国民の安全に関わる内容を秘密にすることに断固反対する。

 国民の理解なくして安全保障は成り立たない。新文書をつくるにしても、必要な情報を開示した上で国民的合意を得るのが本来の在り方だ。
 防衛大綱は政府が10年後までを見越して定める基本指針だ。新文書は中国やロシア、北朝鮮有事への対処を念頭に具体的な作戦をまとめ一部を秘密化するという。政府が実施した防衛省・自衛隊出身者への聴取では「沖縄県・尖閣諸島や台湾を巡る戦い方」と具体例を挙げ、秘密文書化を求める意見があった。
 住民に情報を知らせない状況で何が起こるか。沖縄では77年前、多くの悲劇を生んだ。情報を遮断された人々の心理は「強制集団死」へとつながった。対馬丸をはじめ、疎開学童や避難者が乗る船が、米軍艦船の待ち受ける海へ出航して多数の戦時遭難船舶を発生させた。
 仮に有事となれば、国民の人権も制限される。1963年に自衛隊統合幕僚会議が主宰した「三矢研究」では、朝鮮半島有事が起きた場合、憲法停止など国家総動員体制を構築することを想定した。
 秘密文書にそうした内容が盛り込まれれば、ある日突然、国民の自由が奪われ、国への協力を強制される。
 沖縄では核持ち込みを許す日米の密約もあった。秘密文書は検証の機会もなく、県民は知らぬ間に核戦争の最前線に立たされる恐れもある。
 秘密化された文書は特定秘密保護法に基づき、特定秘密に指定される。安全保障だけでなく基本的人権に関わる重要事項が秘密の名の下に決められる可能性がある。
 2013年に発表された「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」は、70カ国、500人以上の専門家が2年以上に及ぶ議論を経て練り上げた。原則は国家安全保障の分野で立法者(政府)が合理的な措置を講じることと、政府が持つ情報への国民のアクセス権保障を両立するためにつくられた。
 原則では「国民による情報へのアクセスは真の国家安全保障(中略)、健全な政策決定の重要な構成要素である」「政府が国の安全が脅かされていると過剰に主張すれば、政府の暴走を防止する仕組み(裁判所の独立、立法府の監視)を大幅に損ねる恐れ」があると指摘している。
 戦後最長にわたった安倍晋三政権下では共謀罪を含んだ改正組織犯罪処罰法、ドローン規制法、特定秘密保護法など報道の自由、表現の自由を制限する法が施行された。これに加えて、安全保障に関する指針を秘密にすることは国民の知る権利を無視するものだ。情報統制の結果、破滅に突き進んだ戦前の過ちを繰り返してはならない。