<社説>施政権返還50年(5)人間の安全保障 沖縄に国連機関設置を


社会
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 ロシアのウクライナ侵攻による惨禍の報道が日常化する中で、日本の政治家から敵基地攻撃能力や防衛費倍増など、平和憲法を逸脱する危険な発言が相次いでいる。

 沖縄戦を経験し過重な基地の負担に苦しんできた沖縄は「軍事力では平和は実現しない」と身にしみて知っている。基地のある場所が戦場になり、軍隊は住民を守らない、という沖縄戦の教訓が「命どぅ宝」の思想として受け継がれ、県民は「人間の安全保障」を要求してきた。
 その実現のために、これまで国連大学など国連機関誘致を目指してきた。新たな基地や自衛隊増強ではなく、世界平和に貢献し沖縄と日本の安全保障につながる国連機関を設置すべきだ。
 安倍晋三元首相は昨年、「台湾有事は日本有事」と述べ、自身が強行成立させた安全保障法制に基づく集団的自衛権行使の可能性があると主張した。5日には岸田文雄首相が台湾を念頭に「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と発言した。台湾や尖閣諸島で不測の事態が起きた時に沖縄を戦場にすることを前提にしている。首相らの発言は緊張を高めるだけで、あまりにも無責任だ。
 国民の多数も、戦争の危険を人ごとと感じているのではないか。共同通信社の世論調査で、沖縄の基地負担が「不平等」とする回答が79%だった一方で、自分の住む地域への移設には69%が「反対」と答えた。戦場になれば、住民の生命が脅かされ甚大な損害が生じる。それこそが、ウクライナ侵攻から学ぶべきことだ。軍事基地ではなく、平和に貢献する国連機関こそが沖縄に必要だ。
 アジアの架け橋となる地理的位置にあり、沖縄戦という歴史経験を持つ沖縄は、さらに戦前から非戦の思想の系譜がある。ジャーナリスト伊波月城が「非戦論」を訴え、ハワイで牧師の比嘉静観が「無戦運動」を展開したことを比屋根照夫琉球大名誉教授が紹介している(「オキナワを平和学する!」)。戦後も、1953年に戦争のない世界を目指す世界連邦建設琉球同盟が結成された。「人間の安全保障」を体現する地域であり、国連機関を設置するのにふさわしい場所なのである。
 沖縄返還協定が衆院特別委員会で強行採決された1971年11月17日の2日後、屋良朝苗主席が衆院の桜内義雄返還協定特別委員長を訪ねて抗議した。その際、桜内委員長が「沖縄が二度と戦争に巻き込まれないようにするため沖縄に国連大学や国連機関を置くよう佐藤(栄作)首相にも進言している」と国連誘致構想を明らかにした。
 その後、96年に誘致を進める団体が結成されたり、2001年に県議会で国連アジア本部沖縄誘致要請を決議をしたりした経緯がある。政府は沖縄を戦争の危険にさらす軍備増強をやめ、51年来の約束を守る時だ。